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56■概要人が日々の生活や仕事の中で扱う情報は、情報通信技術の進展とともにテキスト、音声、映像だけでなく、匂い、質感など様々な広がりを持ちつつ増大している。人がこれらの情報を理解し、伝えることができ、さらに人との親和性も高い新しい情報通信技術を生み出すためには、脳における情報処理や情報表現様式に着目した研究開発が重要と考えられる。令和2年度は第4期中長期計画の最終年度であり、本研究室では前掲の課題に対応するために、前年度に引き続いて中長期計画に基づき、(1)脳機能解明と次世代ICT研究課題(多様な人間のポテンシャルを引き出し、また人の心に寄り添うロボット等の実現に貢献するために、脳内表象や脳内ネットワークのダイナミックな状態変化を捉える解析や脳機能の解明を進め、これを応用した情報処理アーキテクチャなどの次世代ICTの研究を行う)、(2)ヒューマンアシスト研究課題(認知・行動等の機能に係る脳内表現・個人特徴の解析を行い、個々人の運動能力・感覚能力を推定・向上させる技術の研究開発を行う)、(3)脳情報に基づく評価基盤研究課題(製品やサービスの新しい評価方法等に応用可能な脳情報に基づく快適性・安全性等の評価基盤の研究開発を行う)、を大きな3つの中心課題として、引き続き基礎的な研究開発を発展させるとともに、実社会での応用に更に近づけるべく研究開発を進めた。令和2年度は、(1)脳機能解明と次世代ICT研究課題においては、アルファ波(脳から発生する8-13Hz程度の電気的な振動(脳波))と認知機能等の関係をより詳細に調べるなど、次世代ICTの研究開発の基盤となる脳機能解析を進めた。また、(2)ヒューマンアシスト研究課題においては、引き続きブレインマシンインタフェース(BMI)に関する基盤技術や、動作変容システム、仮想人体筋骨格モデルなどの研究開発を進めるとともに、他者の動作が、自分が予測していた動作と異なる場合に生じる“予測誤差”が、自分自身の動作を無意識のうちに修正していることを示す研究を更に進めた。また、(3)脳情報に基づく評価基盤研究課題においては、多様な能動的認知タスクを遂行中のヒト全脳活動のモデルを用いて新規タスク遂行中の脳活動を解読する技術を開発するとともに、脳活動データを用いた人工脳モデルの構築を介し、MRIによる脳活動計測を新たに行わずに視聴覚刺激の知覚意味内容推定を行う技術などの研究開発を引き続き進めた。■令和2年度の成果1.脳機能解明と次世代ICT研究課題次世代ICT研究開発の基盤となる脳機能解析研究の一環として、アルファ波をはじめとした脳内リズムと認知機能等の関係をより詳細に調べ、アルファ波の特性(周波数や強度など)と認知機能や知覚能力等との関係に関する研究を引き続き推進した。また、以前報告したようにアルファ波の周波数とジター錯視(本来揺れていないはずの物体が揺れて感じられる現象(図1))の周波数との間に相関関係があることから、脳波計を用いることなくタブレット端末などだけを利用してアルファ波の周波数を推測可能であることを、タブレット端末用のソフトウェアを開発した上で示した。これらの成果はアルファ波を利用した応用技術の社会実装を加速するものと期待される。図1 ジター錯視の揺れの周波数からアルファ波の周波数を推定するタブレット端末用アプリを開発3.5.1 脳情報通信融合研究室室長  鈴木 隆文ほか41名新しい情報通信技術を脳情報研究から生み出す

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