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58■概要脳情報通信融合研究センター(CiNet)の中で、脳機能解析研究室は、脳情報科学研究に広く求められる脳活動計測技術の開発・高度化とその技術を用いた知覚認知情報を中心とした脳機能解析研究を推進している。4台のMRI(磁気共鳴イメージング)装置と1台のMEG(脳磁図計測)装置をフル活用して多数の脳機能計測を実施するとともに、新たな計測法の開発に取り組んだ。また、このような機器や脳機能解析技術を用いて、味覚嗅覚の情報処理や多感覚情報処理の機能解明研究も進めている。さらに、CiNet全体の脳情報データの取得・管理・公開システムの技術開発も進めている。■令和2年度の成果脳構造データを計測できる拡散強調MRI及び定量的MRIを組み合わせることで、運動機能や空間注意機能に関わる上縦束(superior longitudinal fasciculus:SLF)と呼ばれる白質線維束の年齢依存性を検証する研究を実施した(図1)。その結果、SLFの中でも加齢による変化が大きい部位とそうでない部位があることが明らかになった。この成果はCortex誌に原著論文として掲載された。また、脳活動を計測できる脳磁図(MEG)と拡散強調MRI及び定量的MRIを組み合わせることで、視覚情報伝達経路である白質線維束データから視覚野における脳活動発生時刻を予測する研究を行った。その結果、MEGで計測された脳活動発生時刻の被験者間分散の20%程度を予測できることが明らかになったが、現状のMRI撮像技術では予測精度に限界があることも分かってきた。この成果はeNeuro誌に原著論文として掲載された。複数同時スライスreadout-segmented EPI(rs-EPI)法を用いた拡散強調MRI研究では、rs-EPI法を用いることで視覚情報伝達の初期経路である視神経におけるデータの質が向上することが分かった。したがって、rs-EPI法を活用することで脳活動発生時刻の予測精度の向上が期待できる。この成果を国際磁気共鳴医学会日本支部学術集会において発表した。昨年度から引き続き開発を行っているMRI脳構造画像の脳組織・血管分割解析法を完成させた。本手法は、MRI脳構造画像のコントラストを用いて短い計算時間で脳組織である灰白質・白質と脳動脈を分割するものである。脳機能解析及び脳体積解析に不可欠な標準脳画像への脳形態変形手法は、脳構造画像における脳血管信号に影響を受けるため、本手法による脳血管の分割は脳機能・体積解析の精度を向上させることができる。この成果はNeuroImage誌に原著論文として掲載された。7T-MRIを用いた特殊な撮像法と画像再構成法を開発し、時間分解能を維持し、信号ノイズ比(SNR)と空間分解能に優れる脳機能的磁気共鳴イメージング法(fMRI)を実現した。これによって、7T-MRIにおいて、30ミリ秒の視覚刺激の数回繰り返しに惹じゃっ起きされた弱い脳活動も高空間分解度(0.7mm iso)で観察できるようになった(図2左)。また、新しい空間での被験者動き補正法を開発し、時間的な信号ノイズ比(SNR)と検出できる活動ボクセルの数の向上を確認することができた。解析方法においては、de-noise とde-drift 技術を利図1 上縦束構造と年齢依存性図2 微細な活動マップ(左)と刺激方法による脳活動応答の差(右)3.5.2脳機能解析研究室室長(兼務)  田口 隆久ほか36名脳活動の高分解能計測技術を開発し、知覚認知メカニズム解明に挑戦

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