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593創つくる●データ利活用基盤分野用することによって、層構造等の超高空間分解度の脳機能解析可能になった。これらの成果はISMRM2020に発表した。従来のfMRIはblood oxygenation level dependent(BOLD)効果の変化を介して脳活動を観察する方法のため、脳内の静脈血管中の血液からのBOLD信号が解析結果に大きく影響する。特に層構造など、超高空間分解能での脳機能研究を行う際には、静脈血管中の血液からのBOLD信号を排除する必要がある。これに対処するため、独自のRFパルスを開発し、単位重量あたりの熱吸収比(specific absorption rate: SAR)を抑えて、超高空間分解度でも血管からのBOLD信号排除を成功した(この成果はOHBM2021で発表予定)。図2右は、30ミリ秒視覚刺激とinter-stimulus-interval(ISI)50ミリ秒と30ミリ秒視覚刺激5回繰り返し、計6秒間と単純6秒間視覚刺激に対し、脳活動の微小変化をとらえている。質感に由来する感性価値(例:魅力、心地よさ、高級感、ときめき、感動など)の向上は、製品開発等に携わる多くの企業にとって重要な課題であるとともに、人々に精神的な豊かさをもたらすと考えられる。しかし、これまでの感性価値の評価は、主観的な印象報告に基づいていたため、その信頼性に課題があった。今回、(株)資生堂と共同で、質感のわずかな差異が大きな印象変化をもたらす人の肌において、fMRIを用いて、肌の光沢に由来する魅力度を反映するヒトの脳活動を世界で初めて捉えることに成功した(Scientific Reports誌に掲載)。この実験では、肌の光沢の質的な違い(“マット”、“テカリ”、“つや”(図3参照))に着目し、このような刺激・目的に特化した、(1)MRI装置内での正確な質感再現手法、(2)fMRI撮像手法(パラメータ調整)、(3)実験デザイン(課題間比較)の3つを組み合わせることにより、肌の光沢の違いによる魅力を処理する脳部位を眉間の数cm後方にある眼がん窩か前頭皮質内側部(図4赤紫部分))と特定し、さらにその脳部位の脳活動の大きさが肌の光沢の違いによる魅力度(心理実験データ)を反映していることを明らかにした(図5、6参照)。今後は、感性価値の高い映像・製品・環境の開発やデザインなどに生かしてくために、質感に由来する感性価値(例:魅力、心地よさ、高級感、ときめき、感動など)の評価手法の開発を更に進め、脳活動計測に基づく客観的・定量的な評価技術の確立を目指す。新型コロナウイルス感染拡大の影響により、約2か月間にわたってMRIやMEGを活用した被験者実験を休止したものの、その後は万全の感染対策の下、計5台の脳計測装置(7T-MRI、3台の3T-MRI及びMEG)を高い稼働率で運用し、多様な脳計測実験を実施した。他の研究機関や企業等との共同研究によるものも数多く含まれ、国際的な脳計測拠点としての活動を加速させている。そして当該センター開所時から稼働してきた3T-MRI装置を最新型へと更新し、競争の激しい脳研究での最新の研究ニーズにも対応させた(図7)。さらに、日々蓄積される膨大な脳計測データを集中管理し、被験者の同意の下、プライバシーに最大限の配慮を払いつつ有効利活用するためのデータ管理システムを導入した。図3 肌の光沢の質的な違い(左から、マット、てかり、つや)図4 眼窩前頭皮質内側部図5 光沢の違いによる脳活動変化図6 脳活動と心理実験結果の関係図7 新しく導入した3T-MRI3.5 脳情報通信融合研究センター

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