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60■概要脳情報工学研究室においては、コミュニケーションや共感、協調性、個人差などの社会性などに関連する脳機能計測とそれを行うためのセンシング技術、さらには、脳に学んだ通信プロトコルなどについて重点的に研究開発を行っている。この中で、令和2年度においては、英語のリスニングの習熟度に関する脳活動の同定を進め、この情報を取り入れた機械学習によるモデルを構築することで、英語聴取時の即時的に表れる脳の応答から英語習熟度をある程度推定することに成功した。また、日常において短期的に情報を記憶・処理するために利用されるワーキングメモリの個人差に関連する脳内ネットワークに関しての研究を進め、特に課題をしていない安静時の脳活動にあらわれる脳内ネットワークにワーキングメモリの個人差が現れることを明らかにした。さらに、神経細胞の活動を模した通信アルゴリズムである「Asynchronous Pulse Code Multiple Access」(APCMA)の開発を進め、IoT(Internet of Things)においての利用を想定し、1,000台規模でのシミュレーションの実施や100台規模のデバイスの開発することで、実証実験をすすめた。■令和2年度の成果教育・学習分野での脳波の利活用を目指し、大学、企業と連携して、脳波を利用した外国語(英語)習熟度推定及びニューロフィードバックトレーニングの研究開発などを進めた。脳波を利用した外国語(英語)習熟度推定の研究開発では、日本語母語話者が英語音声を聞いている時の脳波の解析を進め、音声に含まれる単語の品詞や発話速度などの各特徴の時間応答関数を参加者ごとに推定した(図1)。205名の参加者のデータから、英語のリスニングテストのスコアと有意な相関がある脳波特徴量を同定し、その特徴量を用いて機械学習を行い、個人の脳波から英語のリスニング力を推定可能なモデルを構築した。そのモデルによる英語リスニングスコアの推定値と実際のスコアの相関係数は0.51であった。脳波はミリ秒単位の高い時間分解能を有するため、従来のテストでは捉えられない外国語に対する瞬時の脳の応答を捉えることができると考えられる。また、従来のテストのように外国語の問題に対する回答を必要としないため、問題を解くという外国語理解とは別の認知過程を排除した評価が可能である。また、英語の「L」、「R」の聞き分け能力を向上させるための脳波のニューロフィードバックトレーニングシステムの開発を進め、従来の学習時間の1/5であっても聞き分け能力の向上が実現できることを図1 英語音声に含まれる言語特徴に対する脳波応答関数の推定3.5.3脳情報工学研究室室長(兼務)  成瀬  康ほか24名実生活にかかわる脳情報に関する研究などを推進

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