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76■概要当研究室では、第4期中長期計画のサイバーセキュリティ分野における「暗号技術」に示されている下記の3つの課題の研究開発に取り組んでいる。1.機能性暗号技術:IoTの展開に伴って生じる新たな社会ニーズに対応するため、新たな機能を備えた機能性暗号技術や軽量暗号・認証技術の研究開発に取り組む。2.暗号技術の安全性評価:暗号技術の安全性評価を実施し、新たな暗号技術の普及・標準化に貢献するとともに、安心・安全なICTシステムの維持・構築に貢献する。3.プライバシー保護技術:パーソナルデータの利活用に貢献するためのプライバシー保護技術の研究開発を行い、適切なプライバシー対策を技術面から支援する。■令和2年度の成果1.機能性暗号技術 新たな社会ニーズを満たす暗号要素技術の研究開発を継続しつつ、IoTシステムのセキュリティ・プライバシー保護に寄与するため、企業等との連携により実装・評価を進め、社会還元に向けた取組を進めた。(1)社会ニーズを満たす暗号要素技術の社会還元NewSpaceと呼ばれる宇宙開発におけるセキュリティ課題解決のため、小型衛星・小型ロケット用セキュア通信技術の実験をインターステラテクノロジズ株式会社と法政大学との産官学連携にて共同で実施し、落雷等のある過酷な飛行環境でも通信安全機能を喪失しない鍵管理機構の検証などを実施した。また、TIS株式会社との共同研究では、キャッシュサーバが通信内容を閲覧することなくキャッシュサービスを提供可能な暗号化キャッシュ技術について、格子、符号、同種写像に基づく耐量子計算機暗号を用いた設計・実装性能の評価を行っている。(2)暗号要素技術の機能性向上や効率化に向けた技術複雑なステートメントにも適用可能なゼロ知識証明及び高い機能性を持つゼロ知識証明やディジタル署名に関して、基本的なゼロ知識証明からのモジュール的構成の可能性・不可能性の証明などの基礎研究についての成果が、ASIACRYPT*1 2020及びPKC*2 2020にて採録された。また、準同型認証暗号の機能性向上のため、複数の暗号文の中から改ざんされた暗号文を検出可能な、集団検査機能を有する準同型認証暗号方式を提案し、情報処理学会コンピュータセキュリティシンポジウム2020において、優秀論文賞を受賞した。2.暗号技術の安全性評価総務省、経済産業省及び独立行政法人情報処理推進機構と連携して行っているCRYPTREC*3において、RSA 暗号及び楕円曲線暗号の鍵長に関する指標を提示した。また、耐量子計算機暗号の社会展開に向けた活動を行い、Shorの量子アルゴリズム*4によるRSA暗号等への脅威に関する調査や、耐量子計算機暗号の利用形態の候補であるハイブリッドモードに関する調査を行った。また、5Gとテレワーク時代における暗号技術の安全性評価として、ストリーム暗号 SNOW-VやZoom*5についての安全性評価を兵庫県立大学と共に実施した。量子コンピュータなど新たなハードウェアを使った暗号技術の安全性評価として、D-Wave、IBM Quantum*6 などを利用できる環境を整備すると共に、慶應義塾大学、株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ、株式会社みずほフィナンシャルグループと協力して、IBM Quantumを使い離散対数問題の求解に挑戦し、世界で初めてその求解実験に成功した(令和2年12月9日プレスリリース 図1、2)。この成果をCRYPTRECや量子図1 求解実験に利用した実際の回路3.7.2セキュリティ基盤研究室室長  野島 良ほか20名ネットワークのセキュリティを根幹から支える暗号技術の研究開発

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