853拓ひらく●フロンティア研究分野極的に取り組み、国際電気通信連合電気通信標準化部門(ITU-T)において、QKDネットワークのアーキテクチャ及びセキュリティに関する新たな勧告計5件の文章作成を国内企業と共に主導し、Study Group内の承認に導いた。これにより、日本のQKDネットワーク技術が大きく国際標準に反映される成果となった。衛星量子暗号・物理レイヤ暗号の技術確立に向けた研究開発にも取り組み、フィールド実証に向けた試作機の開発を行った。また、小金井–調布間に構築した光空間通信テストベッドにおいて動作実証を続けてきた光空間通信物理レイヤ暗号システムの高速化(10MHz →10GHz)に取り組み、システムを構築、その基礎データ取得に成功した。来年度からの第5期中長期計画において、飛翔体等による本格的なフィールド実証を行うための、基盤となる技術の確立に成功した。2.量子ノード技術量子情報をネットワーク上でより自在に処理できるようになれば、従来ICTの性能限界を超えた超微弱信号の受信技術、超高精度ネットワークセンシング・時刻同期、量子計算機のネットワーク化など、新たなICTのパラダイムが実現できると期待されている。このためには、光信号の量子力学的な性質を直接自在に制御する技術が必要となる。第4期中長期計画では、その基礎技術開発及び計測技術への展開などを目指し、光量子制御技術、量子計測標準技術、量子インターフェース技術等の開発に取り組んできた。令和2年度は、第4期中長期計画の最終年度として、以下の成果を得ている。光量子制御技術については、前年度に開発に成功した超高速量子もつれ光源で生成した光子の干渉性を向上するための時間フィルタ手法を新規開発し、世界最高レートとなる繰り返し周波数3.2GHzにおいて2光子干渉の観測に成功した(図2)。また、量子計測標準技術については、これまで各種要素技術の開発を進めてきた複数カルシウムイオンを用いた新型可搬型光周波数標準の統合システムを構築し、10,000秒以上にわたる安定光周波数生成の動作実証と光コムを用いた周波数安定度評価実験を完了、技術を完成させた。可搬型光周波数標準技術は、そのまま可搬型量子メモリ技術へと転用が可能であり、量子ノード技術の本格的なフィールド実証を行うためには、量子光源及び可搬型量子メモリの技術が不可欠である。第4期中長期計画で開発されたこれらの技術を統合することで、第5期中期計画において本格的な量子ネットワーク研究開発につながることが期待される。量子インターフェース技術については、フロンティア創造総合研究室巨視的量子物理プロジェクトが中心となり取り組んでいる。従来の光と(人工)原子の強結合領域を超えて、超強結合及び深強結合領域へ拡張するスキーム、さらに、そこで必要となる量子状態測定法の開発を進めた。また、超伝導量子ビット–共振器結合回路のハミルトニアン導出・数値計算に成功し、現象論的な量子ラビハミルトニアンとの対応関係を明らかにした。さらに、新たな量子コンピュータの基本素子の開発を目指し、Si基板上にマイクロ波共振器と強結合した 非アルミニウム型NbN 窒化物超伝導体による新しい量子ビット(0接合、π接合)の作製に成功し、量子コヒーレンスの測定を行った。特に新型量子ビット技術は、将来の量子コンピュータの新たな基本素子となるポテンシャルを有しており、第5期中長期計画における本格的な研究開発の進展が期待される。なお、量子情報通信技術分野全般に関して、将来の「量子ネイティブ」人材の育成を目指した量子人材育成プログラム「NICT Quantum Camp(NQC)」を立ち上げた。さらに、日本全体の産学官連携及び研究開発と実用化戦略の議論を促進するための場として、一般社団法人「量子ICTフォーラム」の設立を主導した。図3窒化物超伝導体新型量子ビットのサンプルa 超伝導量子回路、b 回路内の量子ビットデバイス、c 量子ビットデバイスの断面図 右側は実際のデバイスの電子顕微鏡写真[qubit]λλ/2 CPW resonator図2 超高速量子もつれ光源による2光子干渉計測の実験系超高速量子もつれ光源2光子干渉計測3.8 未来ICT研究所
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