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86■概要現在、世の中に出回る半導体電子デバイス(トランジスタ、ダイオードなど)は、ほぼ全てと言って良いほどシリコン(Si)を材料として製造されている。主にオン/オフ切り替えのスイッチとして、電力制御に用いられているパワーデバイスに関しても同様である。しかしながら、今後長きに渡りSiパワーデバイスの性能を改善し続けることは、その物性上の観点から非常に困難である。このような状況において、高電圧、大電力用途に適した、シリコンカーバイト(SiC)、窒化ガリウム(GaN)といったバンドギャップ値がSiよりも大きな半導体、通称ワイドバンドギャップ半導体を用いたデバイス開発が盛んになっている。SiC, GaNの有するバンドギャップエネルギー 3.3–3.4 eVは、Siの1.1 eVの3倍程度と非常に大きいことから、パワーデバイス用途に特に適した優れた物性につながる。そのため、現在SiC, GaNは、次世代半導体のフロントランナーとして期待を集めている。しかしながら、これら両半導体は、融液成長法という半導体ウェハー製造に一般的に用いられている簡便かつ低コスト手法が利用できない。その結果、高品質、大口径ウェハー製造プロセスが技術的に高度なものとなり、そのコストが嵩かさみ、最終的な製品の価格が下がらないという共通の課題を抱えている。酸化ガリウム(Ga2O3)は、平成23年に我々が見いだし、世界に先駆けてトランジスタ動作実証に成功した新しい半導体材料である。Ga2O3は、その名のとおり酸化物半導体の一種で、4.5eVを超える非常に大きなバンドギャップを有する。また、融液成長により単結晶バルクを育成可能であることが、特に将来のGa2O3パワーデバイス産業化、量産性の観点から重要な特徴である。これら2つの利点から、現在Ga2O3は、SiC, GaNに続く次世代パワーエレクトロニクス有望材料として注目を集めている。実際、Ga2O3デバイス開発は、この10年で世界的に急速な広がりを見せ、現在では多くの大学、企業、研究機関で活発に行われている。Ga2O3は、半導体の最も基本的な特性を示すバンドギャップという値が大きいだけでなく、同様の値を有する半導体が他に見当たらない。そのため、その材料特性から期待されるデバイス応用は、パワーデバイスだけにとどまらず様々な領域に広がる。例えば、極限環境と呼ばれる高温、放射線下などの、通常半導体デバイスの利用が想定されていない過酷な環境下での無線通信、信号処理等の情報通信用途への適用も期待される(図1)。この極限環境用途Ga2O3デバイス開発は、半導体エレクトロニクス領域の新規開拓を意味する。グリーンICTデバイス先端開発センターでは、これまでGa2O3デバイス分野のパイオニアとして、材料、デバイス研究開発を平成22年より継続的に行い、様々なキーテクノロジーの開発に成功してきた。現在、パワースイッチング、高周波無線通信、極限環境エレクトロニクスという三領域での実用の可能性を探ることを目的に、Ga2O3トランジスタ、ダイオードの研究開発を、国内外の大学、企業との連携のもと推進している。■令和2年度の成果1.縦型Ga2O3トランジスタの開発令和元年度作製した電流アパーチャーを有する縦型ノーマリーオフGa2O3トランジスタにおいては、特徴的なドレイン電流の非線形ターンオン特性が観測されていた。この事象は、ドレイン電流経路に負の固定電荷が存在することにより、電子にとってのエネルギー障壁が形成されているためであると考えられる。令和2年度、同デバイスの特性について更に詳細な解析を行ったところ、窒素イオン注入により作製した電流ブロック層から、ドレイン電流経路に当たるアパーチャー部分に拡散した、アクセプタ型点欠陥が原因であることが示唆された。な図1 高周波Ga2O3 FETの極限環境用途例3.8.3グリーンICTデバイス先端開発センターセンター長  東脇 正高ほか4名NICT発新半導体酸化ガリウムエレクトロニクスの開拓

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