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873拓ひらく●フロンティア研究分野お、この点欠陥はガリウム空孔である可能性が高い。また、NICTが開発した窒素イオン注入Ga2O3層の電気的特性評価に関しても、英国ブリストル大との共同研究として行った。結果、伝導帯端から約2.5eV下のエネルギー位置に、取り込まれた窒素が起源となり形成されたと考えられるアクセプタ準位が観測された。窒素イオン注入プロセス技術に関するこれらの知見は、今後の縦型Ga2O3トランジスタ、ダイオード開発に有効活用していく予定である。2.高周波Ga2O3トランジスタの開発令和元年度作製し、世界最高の最大発振周波数 (fmax)27GHzを記録したGa2O3電界効果トランジスタ (FET)の高周波パワー出力特性を評価するために、令和2年度は大信号ロードプル測定を英国ブリストル大学、カーディフ大学との共同研究として行った。測定周波数は1GHz、DC, RF入力共にパルス印加(パルス幅:10µS、パルス周期:100µS)である。なお、今回の測定では、デバイスの高い入力インピーダンスにより、入力側の整合が取れておらず、測定条件自体は最適化されたものでは無い。ゲート長300nmのGa2O3 FETにおいて、最大RF出力電力17.6dBmが得られた(図2)。この値は、出力電力密度に換算して0.58W/mmに相当する。今後、デバイス構造の最適化により、更なるRF出力、効率の改善を目指す。令和2年度には、横型Ga2O3 FETの信頼性、量産性を高めるための研究を併せて行った。Ga2O3基板上にホモエピタキシャル成長したバッファー層、チャネル層を有する基板を用いて作製した横型Ga2O3 FETの場合、Ga2O3基板上に蓄積する大気由来のSi不純物により、エピ層と基板の界面が高濃度Siドーピングされた状況となることで、ドレイン電流のバッファーリークが生じる問題が報告されている。なお、これはGa2O3特有の事象ではなく、化合物半導体FETにとって共通の問題である。令和2年度、Ga2O3バッファー層、チャネル層をエピタキシャル成長する前に、あらかじめGa2O3基板表面近傍に、ディープアクセプタもしくはトラップとなるMg及びFeのイオン注入ドーピングをそれぞれ行い、界面Siドナーを補償することによるバッファーリークの低減を試みた(図3)。その結果、Mgドーピングしたデバイスでは、若干の減少は見られたものの、依然大きなバッファーリーク電流を観測した。一方、Feドープデバイスにおいては、バッファーリークは大幅に減少し、増幅器等のアナログデバイス用途では問題ないレベルまで低減できることを確認した(図4)。このように、エピ成長前にGa2O3基板表面近傍へFeイオン注入ドーピングを行う手法は、横型Ga2O3 FETバッファーリーク電流の低減に効果的であることを見いだした。今後、極限環境用途高周波Ga2O3 FET開発において、特に信頼性、デバイス製造歩留りの向上に役立てていく。図2 ゲート長300 nmの高周波Ga2O3 FETの大信号出力特性(周波数1 GHz)図3 Ga2O3エピタキシャル層/基板界面ドレイン電流リークパス及び対処策として実施したFe/Mgイオン注入カウンタードーピングの模式図図4 横型Ga2O3 FETにおける基板へのFeイオン注入ドーピングの効果:(a) Feイオン注入無し、(b) Feイオン注入有り。 Feイオン注入を行うことにより、大幅にドレインリーク電流が軽減している。3.8 未来ICT研究所

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