88■概要波長200~350nmの深紫外(Deep Ultraviolet:DUV)光は、空気中を伝搬できる光の中で最も波長の短い光に分類される。特にUV-C領域として分類される280nm以下の光は、オゾン層ですべて吸収されるため、地表には降り注がず、ソーラーブラインド領域と呼ばれる。このため、太陽光の背景ノイズの影響を受けない通信・センシングや、大気中の高い散乱係数を利用した見通し外(Non Line of Sight:NLOS)光通信などへの応用が期待されている。また生物のDNAやタンパク質は自然界には存在しない280nm以下の光に対して強い吸収を持つ。この特性により、深紫外光を使えば、塩素などの有害な薬剤を用いずに、細菌やウィルスなどを極めて効果的に殺菌・無害化できる。このような応用以外にも、空気中を伝搬できる光の中で最も波長の短い深紫外光は、光加工や3Dプリンタの高精細化、樹脂の硬化、印刷、環境汚染物質の分解、分光分析、医療応用など、多様な技術領域において今後画期的な役割を果たしていくものと期待されている。従来、この深紫外光を発する光源として、主に水銀ランプが用いられてきた。しかし、光源としてのサイズや消費電力が極めて大きく、その利用範囲は限定されていた。さらに、2017年「水銀に関する水俣条約」が発効され、人体や環境に対し有害な水銀の削減・廃絶に向けた国際的な取組が加速している。このような状況から、これまでにない低環境負荷で小型・高出力・長寿命な深紫外半導体固体光源の実現とその早期社会展開が切望されている。深紫外光ICTデバイス先端開発センターでは、材料科学・ナノ光デバイス技術などに係る基礎研究から産官連携による応用技術開発の取組みまでを一貫して進めることで、従来性能限界を打破する深紫外半導体固体光源や新たな深紫外光ICTデバイスの創出とその社会実装を目標とした研究開発に取り組んでいる。■令和2年度の成果水銀ランプに代わる新しい小型・低環境負荷光源として深紫外LEDへの期待が日増しに高まっているが、現在のところ光出力とコストの両面でまだまだ水銀ランプに圧倒的な優位性があり、本格的に代替が進むような状況には至っていない。今後、新型コロナウィルス感染症対策への活用や水銀ランプの代替、ICT応用といったUV-C高出力ニーズに、コストを抑えつつ対応していくためには、深紫外LEDの単チップ当たりの光出力をいかに高めていくかが国際的な最重要課題の一つとなっている。近年の研究進展により結晶品質に係る問題が大きく改善されてきた一方、依然として深紫外LEDの高出力化を阻んでいる幾つかの重大な課題が残されている。265nm帯のようなAl組成比の高い超ワイドバンドギャップAlGaN系深紫外LEDでは、p型クラッド層として用いるp-AlGaN中のアクセプター準位(ドーパント:Mg)が非常に深く形成される。一般に、Al組成比率70%程度において、その活性化エネルギーは400meV前後にも図1 (a) 深紫外LEDのバンドダイヤグラム及び (b) デバイス構造断面の模式図(a) (b) 3.8.4深紫外光ICTデバイス先端開発センターセンター長 井上 振一郎ほか5名深紫外光デバイス技術により安心・安全で持続可能な未来を切り拓ひらく
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