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104■概要超伝導ICT研究室では、第5期中長期計画において、超伝導ナノワイヤ単一光子検出器(SSPD)の高速化、高機能化に向けて重要となる多ピクセル化技術を研究開発し、超伝導デジタル信号処理回路との融合により 200~300 ピクセル規模の SSPD アレイを実現し、単一光子感度のイメージングの実証を目指している。また、超伝導量子ビットの高性能化に向けて、窒化物材料を用いた超伝導量子ビット作製、評価技術の確立を目指す。■令和3年度の成果SSPDの多ピクセル化を進める上で超伝導ナノワイヤの作製歩留りは重要であり、作製歩留りの改善が多ピクセル化の成否を左右するといっても過言ではない。そこで、第5期中長期計画の初年度にあたる令和3年度においては、作製歩留りの改善を主眼として研究開発を行った。まず、現状の超伝導ナノワイヤを走査電子顕微鏡(SEM)により観察した結果、ナノワイヤ間隙部に短絡箇所が多数見つかり、このようなナノワイヤ間隙のレジスト残渣が作製歩留りの低下要因となっていることがわかった(図1)。この問題は、電子線レジスト現像後、フッ素系プラズマでNbTiN薄膜をエッチングする前に、酸素プラズマ等による前処理(デスカム)を行うことで改善できるが、ナノワイヤ線幅の大幅な縮小や線幅の均一性を悪化させる要因となるため、できるだけナノワイヤ間隙にレジスト残ざん渣さが残らないパターニング条件を検討した。その結果、最適な電子線ドーズ量で描画し、かつウェハを縦置きで現像することで、ナノワイヤ間隙のレジスト残渣が大幅に減少し、ドライエッチング条件の最適化もあわせて、作製歩留りの一定の改善効果を確認することができた(図1)。また、超伝導薄膜の成膜条件についても併せて検討し、結晶粒の細かい均質な膜質が得られる高ガス圧下で成膜条件を最適化し、従来の成膜条件では1秒程度であった成膜時間を5秒程度にまで延ばすことに成功し、そのような低成膜レートで成膜したNbTiN薄膜を用いて作製したSSPDにおいて、十分高い内部効率が実現できることを確認した。SSPDについては、科研費基盤S、ムーンショット、Q-LEAP、総務省委託研究等の外部資金を活用した研究開発にも取り組み、単一光子イメージング、検出光波長の中赤外域への拡大等、新たな課題への挑戦も開始した。特に中赤外域のSSPDについては、4.33 µmの光子に対してSSPDが単一光子応答していることが確認され、システム検出効率として1.2%が得られた(図2)。米国のNISTやオランダ Single Quantum社からも中赤外域に感度を持つSSPDの報告があるが、内部効率(システム検出効率は、内部効率、ファイバ結合効率、光吸収率を掛け合わせたも図1 超伝導ナノワイヤの作製条件の最適化と歩留りの改善very goodgoodbadvery bad0.00.20.40.60.81.0 従来電子線描画、エッチング条件割合ナノワイヤパターンエラー品質very goodgoodbadvery bad0.00.20.40.60.81.0 電子線描画、エッチング条件改善後割合ナノワイヤパターンエラー品質従来作製プロセスプロセス改善後レジスト残渣作製歩留まり︓低電⼦線ドーズ量の最適化+縦置き現像+低ガス圧(従来⽐1/10)エッチング作製歩留まり︓⾼良不良図2 超伝導ナノワイヤの作製条件の最適化と歩留りの改善1.200.40 % @21.0 A=4.33 m3.5.1.1超伝導ICT研究室室長  寺井 弘高ほか11名超伝導によるICTイノベーションを目指して

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