1053●フロンティアサイエンス分野の)について報告があるのみで、4 µm以上の光波長でシステム検出効率の評価に成功したのは世界初の成果である。一方で、中赤外域で高いシステム検出効率を実現することが難しい要因として、SSPDの暗計数率が最大計数率に達するほど室温の黒体輻ふくしゃ射による影響が深刻であることが明らかとなり、狭帯域のフィルタリング等、適切な迷光対策が今後の研究開発で重要となることが明らかとなった。超伝導量子ビットについては、作製プロセス課題の抽出を目的に、NbN/AlN/NbNエピタキシャル接合を用いたトランズモン量子ビット(電荷型量子ビットの一種)を作製し、理研・東大の協力を得てAl製の空洞共振器中で評価を行った。その結果、50 µsを超えるエネルギー緩和時間T1を観測したが、同一設計の素子間でも量子ビット周波数にばらつきがあり、数十 nmの精度で接合寸法を制御可能なパターニング・エッチング技術の確立、ウェハ面内での接合の臨界電流密度の均一性向上が課題であることがわかった。また、通常の絶縁体をトンネル障壁としたジョセフソン接合では接合抵抗に温度依存性は見られないが、AlNトンネル障壁層では極低温での接合抵抗が室温の約3.5倍になっており、半導体的な電気伝導特性を有していることがわかった。このようなAlNトンネル障壁層の半導体的な振舞いは量子ビットのデコヒーレンス要因となる可能性があるため引き続き調査が必要と考えている。一方、巨視的量子プロジェクト、名古屋大学、産総研と連携し、Al空洞共振器でなくTiN/NbN薄膜からなる準平面型(2次元)の共振器と結合した磁束型量子ビットについても作製・評価を行い、20µsを超えるコヒーレンス時間の観測に成功し、この成果をCommunications Materials誌に発表、報道発表を行った。また、超伝導量子ビットの時間領域の測定系をNICTでも立ち上げるべく、任意波形発生器、IQミキサ、ディジタイザ等の調達を進め、冷凍機内部配線の伝送テスト、低温アンプのキャリブレーション等を完了した。NICTではERATO/Q-LEAPプロジェクトを通じて理研・東大にシリコン基板上の低損失TiN薄膜を提供しており、従来装置で成膜したTiN薄膜では、3インチ基板上での膜厚・膜質の分布が課題となっていた。令和3年度は、このような課題の解決に向けて令和2年度に導入した新成膜装置(基板自転機構を装備)の立ち上げを行った。従来装置の場合と同様、水素終端処理したSi(100)基板上に500℃以上に基板加熱を行い成膜することで、結晶配向が(100)に揃ったTiN薄膜の成長が可能であることを確認した。また、850℃で成膜したTiN薄膜の抵抗率、超伝導転移温度を3インチ基板上の5か所(中心とウェハ周辺部4か所)で評価したところ、10 Kにおける抵抗率は2.66~3.17 µΩcmの範囲で分布しており、超伝導転移温度については測定した5か所すべてで5.5 Kという結果が得られた。同様の評価を従来装置で行った結果では、10 Kにおける抵抗率が2.99~6.07 µΩcm の範囲で、超伝導転移温度についても5.3~5.5 Kの範囲で分布しており、基板自転機構を備えた新装置の導入により、膜質の均一性が大幅に向上していることが確認できた。10 Kにおける抵抗率2.66~3.17 µΩcmと超伝導転移温度5.5 Kから、共振周波数10 GHz、信号線幅20 µmの準平面型共振器における共振周波数のシフト量は、120~140MHzと見積もられ、3インチウェハ全面での共振周波数のばらつきを±10 MHz程度に抑制できると考えられる。また、シリコン基板上のTiN薄膜を用いたλ/4準平面型共振器において、シングルフォトンレベルのマイクロ波パワーで120万の内部Q値を達成した(図3)。図3 TiN薄膜を用いたλ/4 CPWR共振器の共振特性と内部Q値のマイクロ波パワー依存性3.5.1 神戸フロンティア研究センター
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