106■概要Beyond 5Gやそれにつづく未来世代の通信システムにおいては、現在の10倍以上の高速化と同時に消費電力を1/100以下にすることが必要とされる。よって、デバイスやサブシステムの更なる高速化・低消費電力化・広帯域化・小型化等が必須となるが、従来材料を用いたデバイスでは早晩性能が限界に達すると予想されている。当研究室では、従来限界を打破する超高速・超低消費電力・超小型光変調器や超広帯域無線光変調器などの革新的デバイス・サブシステムの創出を目指して、有機電気光学(EO)ポリマーなどの優れた光機能を有する有機材料と無機誘電体・半導体・金属等とのナノレベルの構造制御・機能融合技術やハイブリッドデバイスの集積化技術等のナノハイブリッド基盤技術の研究開発を行っている。また、有機無機ハイブリッドデバイスの社会展開に向けて、耐久性や量産などの実用化に向けた課題抽出とその解決に向けた研究開発にも、企業と連携し取り組んでいる。令和3年度は、小型光変調器等の超高速光制御デバイスに係る基盤技術として、低電圧動作や短波長動作に向けたSi/有機EOポリマーハイブリッド光変調器の構造や作製プロセスの最適化等の検討を実施した。また、無線光変調素子や電界センサ等の超広帯域電磁波制御デバイスに係る基盤技術として、150 GHz帯無線光変調素子の試作と評価を行うとともに、広帯域化や高効率化に向けた積層技術等の開発を実施した。実用化に向けた取組としては、有機EOポリマーを用いた光制御デバイスの光劣化要因を明らかにするとともに、光耐久性強化技術の検討とその有効性の検証を行った。■令和3年度の成果小型光変調器等の超高速光制御デバイスに係る基盤技術として、データセンターなどの中短距離データ通信の高速化と低消費電力化に向けて、JST A-STEPにより情報通信機器製造企業と「Si/有機ポリマハイブリッド超高速光変調器の実用化技術開発」を進めた。データセンター内のデータ通信では、Siフォトニクス技術を用いたOバンド(波長1,308 nm)の光インターコネクトが標準となっている。一方で、Si/有機EOポリマーハイブリッド光変調器(図1)は、Si光変調器に比べて高速で低消費電力であることが報告されているが、これまでOバンド用に適した有機EO材料がなくCバンド(波長1,550 nm)でのみの実証であった。NICTでは、これまでにOバンドで優れた特性を有するEOポリマーの開発に成功しており、これを用いてOバンド用ハイブリッド光変調器の試作を行ってきた。実用化に向けた製造技術の確立を図るため、Siスロット光導波路構造は、量産化において不可欠なSiフォトニクスファブを利用して作製した。ファブを利用して作製したSiスロット構造に対して、NICTが開発したEOポリマーの無空隙充填プロセスを適用することにより、Oバンドにおいて汎用Si光変調器(VπL=2)に対して7倍以上高効率の光変調(VπL=0.27)を実現した。EOポリマー光変調器の光フェーズドアレイなどへの応用について、安価なSiディテクタが使用できる1,100 nm以下の短波長化に向けた検討を行った。これまで、赤色光において透明でEO効果が大きい赤色光用EOポリマーの開発に成功しており、これを用いることで従来のCバンド用EOポリマー変調器(VπL=1.8)よりも3倍以上高効率(VπL=0.52)で短波長(640 nm)の光変調動作を世界で初めて実証した(図2)。また、可視光フェーズドアレイの実証に向けて、赤色光用EOポリマーを用いて8分岐導波路を試作し、明瞭な8ch分岐出射光を確認した。超広帯域電磁波制御デバイスに係る基盤技術として、光ファイバー無線モバイルフロントホールの一部無線区間やリモートアンテナにおける高速無線-光信号変換に図1 Si/有機EOポリマーハイブリッド光変調器の構造3.5.1.2ナノ機能集積ICT研究室室長 大友 明ほか11名有機無機ハイブリッドによる革新的デバイスの創出を目指して
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