108■概要バイオICT研究室では、人や環境への親和性の高い情報素子の提供による新奇情報通信サービスの構築に向けて、持続可能でより豊かな未来社会の実現につなげるため、生命体の分子を介した情報通信の利活用と、それらと電磁的なネットワークとの融合に必要となる、分子情報の定量化や信号変換技術等を用いたバイオマテリアルによる情報識別・通信システムの創出に関する基盤的研究開発に取り組んでいる。具体的には、現在の情報通信技術では測定や伝送が困難な、生物の化学的感覚や生物活性物質の影響など、分子に付随した情報を計測・評価するための基盤技術を構築するとともに、生物システムにおいて普遍的にみられる、分子を介した情報通信システムの構成や制御に必要な要素としてのバイオ材料等のソフトマテリアル活用型の新奇情報素子の作製・操作に関する基盤的技術の構築を目指す。取組の柱は以下の2つである。1.バイオマテリアルによる情報識別法の高度化分子に付随した情報を評価するためのベースを構築するため、化学的ラベルを識別することで大きなメリットを得られる評価対象の検討と、効果的な評価を実現するために必要な計測システムの設計を行う。令和3年度には、化学的ラベル識別対象の基礎的な検討と計測システムの設計に取り組んだ。2.バイオマテリアルを活用した新奇情報素子の構築天然の生体分子由来のパーツを組み合わせて情報処理システムを構成するための要素技術の検討を行うとともに、細胞内に人工的に微小な機能構造を構築する技術を用いて細胞のもつ有用な機能を人工的に再現するための基礎技術の検討を行う。令和3年度には、生体分子を組み合わせた情報処理システムを構成するための要素技術の検討と、細胞内微小空間構築技術を用いて細胞の有用機能を人工的に再現するための基礎技術の検討を行った。■令和3年度の成果1.バイオマテリアルによる情報識別法の高度化(1)バイオマテリアルを活用した情報識別法として、これまで我々は、化学物質入力に応答するバクテリアを基板表面に固定し、入力物質の種類や濃度に依存して変調するそれらの回転運動を高スループットで検出する計測システムを構築、これにより収集したデータとベイズ推定法及び機械学習法を活用し、入力された未知の溶液の化学的ラベルを識別する新しいコンセプトのセンシング技術を提案してきた。今年度は、この技術についてのフレームワークを明確化し、その有効性について精査を行って、化学情報を識別するためのバクテリアセンシング技術のコンセプトをとりまとめ、論文を発表した(Scientific Reports誌掲載)(図1左)。人が舌で味わうように化学物質の情報を見分ける新しい手法であり、これまでセンシング困難であった領域にまで検出対象を拡張する技術として注目され、多数の記事に取り上げられている。また、化学的ラベルを識別する対象の調査をすすめ、ヘルスケア分野と環境分野に関する連携先との協力関係を構築して具体的ターゲットの設定をおこなった。さらに、この技術の社会展開を加速するための取組として、オンサイト計測を容易に実施できるようにするための計測システムの可搬化を進め、計測システムの小型化とそれに伴う解図1 化学的ラベル識別対象の基礎検討と計測システムの設計3.5.1.3バイオICT研究室室長(兼務) 小嶋 寛明ほか26名生物の有用機能を人工的に再現した新奇情報素子の研究開発
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