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1133●フロンティアサイエンス分野並びにエアロゾル中のSARS-CoV-2に対する光不活性化効果を定量的に検証した。窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系DUV-LEDの極めて低い光取出し効率や効率ドループの問題を改善する、ナノフォトニック構造技術や各種デバイス要素技術等を開発することで、室温・連続駆動・シングルチップの条件下で、従来市販DUV-LEDの約10倍に相当する、500 mWを超える高出力265nm帯DUV-LED照射システムの開発に成功した(図1)。液体中のSARS-CoV-2に対するDUV-LEDの不活性化効果を調べるため、スライドガラスの上にSARS-CoV-2懸濁液を円形に広げ、真上からDUV-LED光を照度54mW/cm2で照射した。ウイルス懸濁液を回収しプラークアッセイを用いてウイルス力価を測定すると、ウイルスの感染力は照射0.167秒後に1/1000、0.270秒後に1/10000、0.387秒後に1/100000に減少した。各タイムポイントにおける照射光量は、それぞれ9.02 mJ/cm2、14.58mJ/cm2及び 20.90mJ/cm2であり、DUV-LED光によるSARS-CoV-2懸濁液のD99.9は9.02mJ/cm2であった(図2)。次にエアロゾルに対するDUV-LEDの照射効果を調べるため、バイオセーフティレベル3施設の安全キャビネット内にSARS-CoV-2エアロゾルの解析が可能な試験チャンバーを設置した。試験チャンバー内のネブライザーを用いてSARS-CoV-2を含むエアロゾル(94.9%以上の粒子が直径2 μm未満)を生成し、DUV領域の光透過性の極めて高い合成石英で作製された管を介してエアロゾルをエアサンプラーで採取する実験系を構築した。DUV-LED照射システムは合成石英管内を通過するエアロゾルを石英管の外側から光照射できるように設置され、エアサンプラーの吸引流量を調整することでエアロゾルが照射領域を通過する時間(照射線量)を制御した。エアロゾル化したSARS-CoV-2は、DUV-LED照射により、0.0043秒(0.23 mJ/cm2)後に1/10、0.0074秒(0.40 mJ/cm2)後に1/100、そして0.019秒(1.04 mJ/cm2)後に1/1000にまで急速に不活性化された(図3)。SARS-CoV-2エアロゾルのD99.9に必要な総線量は1.04 mJ/cm2であった。DUV-LED照射は、ウイルスエアロゾルに対して、ウイルス懸濁液に比して約9倍の高い有効性を示すことを世界で初めて明らかにした。本研究では高出力DUV-LEDの照射効果を定量的に検証するために、石英管の内径サイズ(20 mm)と同じ、直径約20 mmの範囲で光照射量が均一になるようにLED・レンズ光学系を調整し、試験サンプルと光学系との距離(ワーキングディスタンス)を550 mmで固定して実験を実施した。LED光源の照射範囲及び照射距離についてはDUV-LEDのチップ数、出力、照射時間等を調整することで、使用用途に応じた最適化が可能である。DUV-LEDのウイルス不活性化用途における実用化の際には、人体への安全性を確保するために、皮膚や目への直接照射を避ける運用が必要となる。ウイルスエアロゾルの不活性化に対しては、空気清浄機やエアコン等の内部に組み込むなど、安全な遮蔽機構を有する製品を開発し利用していくことが有望である。本研究により、波長265 nm帯のシングルチップ500 mW高出力 DUV-LED照射システムを用いることで液体中及びエアロゾル中のSARS-CoV-2を迅速に不活性化できることが実証された。265 nm 高出力DUV-LEDは、低コスト・高効率に物体表面の殺菌に利用できるほか、空気清浄機やエアコンに組み込むことで、エアロゾル中のSARS-CoV-2の迅速な不活性化を実現し、感染拡大の防止や公衆衛生の向上に寄与することが期待される。図3新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)エアロゾルに対するDUV-LEDの不活性化効果図2新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)懸濁液に対するDUV-LEDの不活性化効果3.5.1 神戸フロンティア研究センター

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