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118■概要当研究室は、ミリ波及びテラヘルツ波(周波数30GHz~3 THz)を用いた無線システムの実用化に向けて重要となるトランシーバのモジュール化技術の確立に向けて、ビーム制御技術、無線伝送システムの評価技術、これらの基盤となる電子デバイスの高性能化に取り組むテラヘルツエレクトロニクスプロジェクト(PJ)と、将来の高速・大容量通信及び高精度センシングにおいて重要な要素となる高安定な基準信号源技術の研究開発を行うテラヘルツフォトニクスPJを設け、いまだ十分に利活用が進んでいないミリ波及びテラヘルツ波帯などの周波数帯を“新たな電波・周波数資源”として開拓する技術開発を進めている。■令和3年度の成果高速・大容量無線通信技術の確立に向けたテラヘルツ帯トランシーバ集積回路の要素回路技術の開発として、テラヘルツ帯トランシーバ集積回路に用いる局部発振(LO)信号用の9逓倍器回路を、一般普及に適したシリコンCMOSプロセスを利用して試作した(図1)。9逓倍器回路は、2つの3逓倍器回路と各中間周波数帯に対応した増幅器、そして最終段のインジェクションロック型電力増幅器により構成され、25 GHzの入力信号を逓倍・増幅させて225 GHzの出力信号を得る。キャパシタクロスカップルによる増幅器のゲインブースト手法、段間インピーダンス整合と2次高調波成分の不要波の抑制を狙った独自設計のトランス、不安定領域における高出力整合を利用したインジェクションロック型増幅器などの技術を利用し、他の不要波を抑制しつつ、周波数225GHzにおいて+4 dBmの出力電力を達成した。このパワー合成によらないシングルパス構成で、国内外トップクラスの高い出力性能と回路面積や消費電力の低減、更には位相雑音の抑制を実現した(図2)。ミリ波及びテラヘルツ波を用いた超高周波無線通信システムの実用化に向けた電子デバイスの高性能化として、ワイドバンドギャップⅢ-Ⅴ族化合物半導体でSiやGaAsなどと比較して熱伝導率が大きく、放熱性に優れるため高温動作が可能で、また電子の飽和速度が高く、絶縁破壊電圧が高いため高出力・高耐圧なパワーエレクトロニクス材料やデバイスとしての応用が期待されている窒化ガリウム(GaN)系高電子移動度トランジスタ(HEMT)の高出力化のため、国内最高の最大発振周波数(fmax)287GHzを達成したNICT製GaN基板上MIS型In0.18Al0.82N/AlN/GaN-HEMT(ゲート長Lg = 45nm、ゲート幅Wg = 100µm、ソース・ドレイン間距離Lsd = 1.0µm)の周波数70 GHzでの出力特性をロード・ソースプル出力特性評価システム(図3)により評価し、出力電力密度(Wg = 1 µmあたりの出力電力Pout)0.75W/mm以上かつP1dB = 15.0dBmを達成した。これはGaN系HEMTよりも高いfmax = 425GHzをもつNICT製InP基板上In0.7Ga0.3As/In0.52Al0.48As系HEMT(Lg = 50nm、Wg = 100µm、Lsd = 1.8µm)と比べて約7.2倍、約4.4倍高いPout、P1dBで、GaNデバイスの高い出力性能と線形増幅性を示した(図4)。図1 225 GHz信号用9逓倍器回路のチップ写真図2 9逓倍器の出力周波数特性(左)と位相雑音(右)3.5.2.2超高周波ICT研究室室長  渡邊 一世ほか8名高速・大容量通信及び高精度センシングを目指した研究開発

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