1193●フロンティアサイエンス分野一方、次世代の高周波トランジスタへの応用を目指して、電子有効質量が小さく、電子移動度や電子飽和速度が高いアンチモン(Sb)系Ⅲ-Ⅴ族化合物半導体であるガリウムインジウムアンチモン(GaInSb)を電子走行層(チャネル層)に用いた微細T型ゲートGa0.22In0.78Sb/Al0.4In0.6Sb系HEMTの開発として、今年度は分子線エピタキシー法によりAlInSbスペーサ層を薄層化成長することによりゲート・チャネル間距離を短縮し、このスケーリングがHEMTのDC及び高周波特性に与える効果について調査した。同じLgをもつ従来HEMT構造と比較し、薄スペーサ構造HEMTは約30%高いドレイン電流(Ids)403 mA/mmを示すとともに相互コンダクタンス(gm)及び電流利得遮断周波数(fT)も高い値を示し、Lg = 70nmにおいてgmの最高値0.81 S/mmを、Lg = 35 nmにおいてfTの最高値301 GHzをそれぞれ得た。なお、薄スペーサ構造HEMTで高い特性が得られた要因について遅延時間解析を行った結果、主にゲート・チャネル間距離の短縮に伴うゲート電極直下の電子速度の増大とソース抵抗(Rs)とドレイン抵抗(Rd)の低減による寄生抵抗の減少に起因することを確認した。Beyond 5G/6Gを見据えた高速・大容量無線通信においては、広い帯域の利用が可能であるテラヘルツ帯の周波数を活用することが一つの候補となる。無線通信技術の中で重要となる要素の一つに高安定な基準信号源があるが、テラヘルツ帯における高安定信号源技術を中心に研究開発を実施した。テラヘルツ帯基準信号源開発においては特に周波数コム技術に着目し、更に小型化が期待できる微小共振器による光コム光源の研究開発を行った。令和3年度は(1)高Q値微小共振器のデバイス構造作製の検討及び(2)集積化テラヘルツ信号源に向けた信号処理回路の機能集積について検討した。(1)については、窒化シリコン(SiN)堆積プロセスの見直しを行い、これまでの高温(>700℃)から低温(<400℃)での堆積を行った。この手法だとひずみの影響が避けられるため、集積化におけるダメージを防げるというメリットがある一方、水素基が膜内に残留するためにCバンドの吸収によるQ値の低下という問題がある。そこでポストアニールプロセスを導入することにより残留水素基除去を行い、1.55 μm帯でQ値が104台から>3×105という顕著な向上が確認できた。(2)に関しては、チューニング可能なテラヘルツ信号源実現のため、信号処理回路としてのオンチップフィルタを微小共振器と共に作製した。作製したオンチップフィルタの特性は図5(上)となり、7.8 GHzの半値全幅の共振特性が得られた。この共振波長をオンチップフィルタに装荷されたヒーター電極によりチューニングを行い(ヒーター投入電力:P1 = 53.5 mW、P2 = 18.8 mW)、実際に300 GHz間隔の光ソリトンコムから600 GHz間隔のtwo-tone信号発生を実現した(図5(下))。図3 70 GHz帯ロード・ソースプル出力特性評価システム図4 NICT製GaN系HEMTの出力特性(周波数70 GHz、左)とNICT製InGaAs系HEMTの出力特性(周波数90 GHz、右)-20-1001020-15-10-50510152025Pout (dBm)Pin (dBm)PoutGainPAELg = 45 nmWg = 50×2 mLSD = 1.0 mVds = 2.5 VVgs = -2.66 V(a)GaN-MIS-HEMTFreq. = 70 GHz-20-1001020Pin (dBm)(b)InGaAs-HEMTFreq. = 90 GHzLg = 50 nmWg = 50×2 mLSD = 1.8 mVds = 0.8 VVgs = 0.1 VPoutGainPAE0510152025303540Gain (dB), PAE (%)Pout = 10.2 dBmP1dB = 8.6 dBmPout = 18.8 dBmP1dB = 15.0 dBm1550.61550.71550.81550.9155100.20.40.60.81TransmittanceWavelength [nm]7.8 GHz図5 作製したオンチップフィルタの透過スペクトル(上)とこれにより生成したtwo-tone信号スペクトル(下)1570157515801585-90-80-70-60-50-40-30Intensity [dBm]Wavelength [nm]23.2 dB20.7 dB20.7 dB3.2 dB600 GHzP1= 53.5 mWP2= 18.8 mW3.5.2 小金井フロンティア研究センター
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