120■概要我々の日常生活において、半導体エレクトロニクスの重要度は日に日に増している。実際、身近に接するほとんど全ての家電製品には、電力供給、制御などの様々な機能をつかさどる半導体デバイスが組み込まれている。現在のコロナ禍における半導体デバイスの供給不足が、我々の日常生活の様々な面で大きな影響を与えていることからも、半導体デバイス技術の社会的重要度、日常生活への浸透度が見て取れる。このような社会的状況において、世界規模での省エネ・低炭素化に貢献する技術開発の必要性から、電力変換・スイッチングに用いる半導体パワートランジスタ、ダイオードの高効率化に向けた研究開発が、近年これまでにも増して活発化した。その一つの方向性として、現在主流のシリコン(Si)デバイスを、必要性、目的に応じて、より物性的に適したSi以外の半導体デバイスに置き換えるための研究開発が盛んに行われている。上述の社会情勢及び理念に基づき、グリーンICTデバイス研究室では、新ワイドバンドギャップ半導体酸化ガリウム(Ga2O3)を材料とするパワートランジスタ、ダイオードの研究開発を中心テーマの一つとしている。Ga2O3は、我々が世界に先駆けてトランジスタ化に成功した新しい半導体材料であり、半導体の最も基本的な特性を示すバンドギャップという物性値が大きいという特徴を有する。当研究室では、これまでGa2O3材料、デバイス研究開発を継続的に行ってきており、様々なキーテクノロジーの開発に成功するなど本分野を牽引し続けている。令和3年度にスタートした第5期中長期計画では、第4期に行ってきたGa2O3デバイス技術開発を継続し、実用化・産業化を目指した研究開発に注力する。そのワイドバンドギャップに起因する優れた物性から期待されるデバイス応用は、パワーデバイスだけにとどまらず様々な領域に広がる。例えば、Ga2O3デバイスは、Siに代表される既存の半導体デバイスでは長期間の安定利用が不可能な、「極限環境」と呼ばれる高温、放射線下などの過酷な条件での無線通信、信号処理応用が期待される。本研究室では、この極限環境エレクトロニクス応用に向けた高周波Ga2O3トランジスタ開発にも取り組んでいる。これらGa2O3パワーデバイス、極限環境デバイスの研究開発に関しては、機構内自主研究だけにとどまらず、大学及び企業との緊密な連携のもと推進している。また、研究開発において生じる特許などの知的財産に関しても、戦略的かつ効率的な取得を目指して活動している。■令和3年度の成果1.縦型Ga2O3パワートランジスタ、ショットキーバリアダイオード開発令和3年度は、令和4年度以降に本格開発を予定する、縦型Ga2O3電界効果トランジスタ(FET)作製に必要となる種々のデバイスプロセス技術の開発を行った。その中でも、エッチングプロセス技術開発に注力し、深堀りドライエッチング技術及びエッチングにより生じる表面ダメージの除去プロセスを開発した。現在までに、原子層レベルで平坦なGa2O3フィン側壁が得られるようになっている。続いて、本年度開発した一連のエッチングプロセスを、FETよりも構造が簡便なショットキーバリアダイオードの作製に適用した。図1(a)に、作製した縦型Ga2O3ショットキーバリアダイオード構造を示す。深掘りトレンチをSiO2で埋めた後、その上に階段状フィールドプレートを作製した電界集中緩和のため終端構造に特徴がある。この階段状トレンチフィールドプレートが効果的に働いた結果、耐圧1,600 V超、オン抵抗 7.6 mΩcm2の世界最高レベルのデバイス特性を実現した(図1(b))。この結果は、トレンチ作製に用いたエッチングプロセスが、構造面のみならず、実際のデバイス応用で重要となる電気的特性の面でも高い技術レベルにあることを示している。令和4年度以降、本年度得たエッチングプロセス技術に関する知見を活用して、縦型Ga2O3 FET開発を推進していく。2.極限環境応用を目指した横型高周波Ga2O3 FET開発令和元年度に作製し、令和2年度に種々のデバイス特性評価を行った横型短ゲートGa2O3 FETにおいては、寄生成分であるアクセス抵抗が他の半導体材料系FETと比3.5.2.3グリーンICTデバイス研究室室長 東脇 正高ほか5名酸化ガリウムエレクトロニクス ~パワー、極限環境、その先へ~
元のページ ../index.html#128