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1233●フロンティアサイエンス分野に示すなど大きなインパクトを与えた。また、磁気共鳴画像装置MRIの中で選択的に香り(嗅覚刺激)を与えることができる実験系を構築した。これによって、香りが視覚の主観評価を変化させ、対応する脳活動レベルにも差を生じさせることを示した。視覚と嗅覚のクロスモーダル現象の神経科学的証拠を示したものとして注目されている。また、日本語母語話者が英語の自然発話を聴いている時の脳波から、言語的特徴別の脳波応答を同定し、脳波指標からリスニング習熟度を評価するモデルを構築した。脳情報による情報理解度の評価技術につながる成果である。また、『イ.脳情報通信技術の応用展開に関する研究開発』では、運動機能に関する脳機能の知見から社会実装された成果を生み出している。脳領域間の抑制機構が、成長とともに成熟し、加齢に伴い劣化することをMRI計測によって明らかにした。これは、人間の脳における領域間抑制機構のライフスパンでの変化を初めて可視化した成果である。また、脳の半球間抑制機能と手指の巧緻性に関連があることを明らかにした。企業との連携によって、この知見を高齢者向け運動トレーニングプログラムに実装して社会展開することができた。『ウ.脳情報通信技術の社会的受容性を高めるための産学官連携研究活動の推進』では.CiNetの研究成果を広く産業界に知らせるための取組を行い、企業との共同研究を積極的に進めた。また、ヒトの脳機能研究とその成果を、社会受容につなげるための課題やその解決法を明らかにしていくことは、最先端研究を実施する上で重要となってくる。CiNetでは倫理・法律・社会課題(ELSI)に係る研究を行うべく、センター内にELSI研究グループを設置して、この分野を先導する大阪大学ELSIセンターとの協働によって、ELSIへの取組を開始した。加えて、内閣府のPRISMとして実施中の「脳情報から知覚情報を推定するAI技術」プロジェクトにおいて、当該技術の社会受容性に関する調査研究を行い、社会実装に向けた検討会を開催して議論を重ねた。成果発信の一つとして、設立以来、毎年実施しているCiNetシンポジウムとして、COVID-19 感染症対策を十分施したハイブリッド形式で、設立10周年記念式典と記念講演会を令和3年11月5日に開催した(図2)。このシンポジウムでは、ブラウン大学教授で認知科学の先端的かつ重要な成果で著名な渡邊武郎教授による招待講演、北澤茂大阪大学教授による特別講演、CiNetでの研究活動の主体である3研究機関を代表する研究者による講演を行い、300名超の参加者に対してCiNetの研究活動を広く示すことができた。また、海外からの研究者をCiNetに招へいして行うCiNetカンファレンスでは、リモート会議システムの特徴を生かして、世界から著名な研究者、新進気鋭の研究者の参加を得て、「New horizons in brain mapping」として最先端の脳機能計測技術とそれによって明らかになった新たな知見が紹介された。延べ300名近くの参加者を得て、令和4年2月1日から3日までの3日間にわたる会議で、知の創造につながる議論が展開された(図3)。CiNetでは基礎から応用まで幅広い研究が行われているが、基礎研究段階であっても社会応用が可能なものはいち早く社会展開するノンリニア型の研究開発を推進している。社会展開には産業界の理解と協力が必須であり、このために企業連携フォーラムへ積極的に参加している。CiNetの研究成果を産業界に示す機会を増やすことで、企業からの資金受け入れ型共同研究を促進して成果につなげている。今後も、人々が安心して豊かな暮らしを享受できるICT社会の構築に貢献できる脳情報通信融合技術を育てていく。図3 第7回CiNetカンファレンスCiNetカンファレンスNew Horizons in Brain Mapping図2 10周年記念式典と第11回CiNetシンポジウムCiNet設⽴10周年記念式典及び第11回 CiNetシンポジウム10周年記念式典第11回CiNetシンポジウム3.5.3 脳情報通信融合研究センター

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