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124■概要脳情報通信融合研究室は、第5期中長期計画において、人間の究極のコミュニケーションの実現や、人間の潜在能力の発揮を実現することで人々が幸せを実感できる新しいICT の創出を目指して、人間の認知・感覚・運動に関する脳活動を高度かつ多角的に計測・解析する技術を開発し、人間の様々な脳機能の向上を支援できる技術等の脳情報通信技術の研究開発を目標としている。この目標を達成するために、2つのサブ目標を設定している。1つは、人工脳モデル構築のための脳機能計測と解析に関する研究開発であり、ここでは、(1)自然で多様な知覚・認知を司る脳内情報表現を包括的に扱う脳機能モデルの構築に向け、より多様な知覚・認知条件下での脳活動データを収集し、脳機能モデルの構築と高度化を行うとともに、当該モデルの脳に倣う人工知能への応用を検討すること、(2)視覚情報処理と脳波の関係や時間感覚の脳内処理メカニズムを解析し、人間の時空間感覚の制御・拡張技術を検討すること、(3)視覚刺激などの刺激提示手法を高度化し、3D(次元)視覚情報処理などに関する脳活動データを収集することを具体的な目標としている。これらの目標に対して、令和3年度は、視覚刺激提示手法の高度化と3D視覚情報処理に関する脳活動解明において成果を出すことができた。サブ目標の2つ目は、脳情報通信技術の応用展開に関する研究開発であり、ここでは、(1)ブレインマシーンインターフェースシステムの高度化に向け、神経電極のさらなる多点高密度化を図るため、表面型神経電極の作成プロセスの改善を行うとともに、体内外無線通信技術の課題抽出を行うこと、(2)運動パフォーマンス向上技術の開発に向け、脳の半球間抑制機構のモデル化を開始し、手指の器用さとの関連を調査すること、(3)人間の運動機能解析や向上に資する、多様な組織を包含した筋骨格モデルを構築することを具体的な目標としている。令和3年度は、運動パフォーマンス向上技術の開発と筋骨格モデルの構築に関して成果を出すことができた。以上のように、第5期中長期計画に従って、着実に研究を進め、成果を上げている。■令和3年度の成果1.刺激提示手法の高度化と人の3D 視覚情報処理機構の解明視覚刺激提示手法の高度化については、MEGを使った脳機能計測実験で使用できる視覚刺激呈示システムを構築した(図1)。このシステムは、現行のMEG用視覚刺激システムとしては最大視野を誇る視野80度までをカバーでき、かつ、バーチャルリアリティのような3D画像・映像も提示でき、これらの刺激映像はMEG操作室から制御できる利点をもつ。加えて、3D映像を観察中の眼球運動を計測できるシステムも開発した(図1)。これまでの眼球運動計測装置は、主に2D画像観察中の眼球運動を計測するものであったが、このシステムの開発により、3D空間内でヒトの眼がどこを注視するのかを捉えることを可能にした。これらのシステムの開発は、より自然で多様な知覚・認知条件下での脳活動データの収集を可能にし、今後の脳機能モデルの構築と高度化に資するものである。3D 視覚情報処理に関する脳活動解明に関しては、人の顔認知が奥行き知覚とは独立に処理されているのではないことを明らかにした。正立顔と倒立顔の刺激を用意して、これらの刺激を被験者から離れた様々な位置に提示した。このとき、正立顔と倒立顔の位置に関する奥行きを評価してもらうと、正立顔の方が奥行き弁別成績が悪いことがわかった。これは、顔認知が奥行き知覚に影響を与えていることを意味した。実際、奥行き知覚の中間処理領域(V3)の脳活動から正立顔と倒立顔の判別ができることがわかり、奥行き知覚の中図1 視覚刺激提示手法の高度化投影サイズを大きくし、視野全体を覆うような視覚映像の呈示も可能刺激映像はMEG室外より制御可能3D空間内でヒトの眼がどこを注視するのかを捉えることが可能MEG⽤視覚刺激呈示システム3D映像を観察中の眼球運動計測システム3.5.3.1脳情報通信融合研究室室長  内藤 栄一ほか20名人の脳機能を理解して、脳機能向上のための支援技術を研究開発する

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