1253●フロンティアサイエンス分野間処理領域(V3)は顔認知にも関与していることが明らかとなった。従来まで、顔認知は腹側視覚経路、奥行き知覚は背側視覚経路と、それぞれ異なる経路で処理されていると考えられていたが、この成果は人の顔認知が奥行き知覚の中間処理領域でも処理されているという新しい科学的知見をもたらした(図2)。2.運動パフォーマンス向上技術の開発65歳以上の人口が3,600万人を超える超高齢日本社会では、高齢化に伴う認知・運動機能低下が喫緊の課題になっている。脳情報通信融合研究室では、運動制御や知覚・認知情報処理に関わる脳のシステム論的理解を図りながら、これらの脳機能を支援・改善できる技術の開発を行っている。高齢者の脳の特徴として、抑制機能が低下していることを挙げることができる。脳が正常に機能し、健全なパフォーマンスを実現するためには、この抑制機能が適切に働くことが極めて重要である。そこで、脳内抑制機構の代表といえる左右運動野間の半球間抑制機能を65歳以上の高齢者を対象にして、機能的磁気共鳴画像法で調査すると、高齢者では半球間抑制機能が減弱または消失していることがわかった。左右運動野間の半球間抑制機能は、運動中の左右の運動野間の不必要な相互干渉を抑えるための機構と考えられており、高齢化に伴った半球間抑制機能の減弱・消失は手指の器用さの低下に関連していることがわかった(図3)。そこで、トレーニングによって、半球間抑制機能を改善できれば手指の器用さも改善できるかを検証した。左右手指のコーディネーショントレーニングを2か月にわたって行うと、この抑制機能を再活性化でき、合わせて手指の器用さも改善できることを実証した(図3)。興味深いことに、トレーニング前に半球間抑制機能が消失していた被験者ほど(図3の塗りつぶし点)、トレーニング後に半球間抑制がよく改善され、器用さもよく向上していることもわかった。以上の結果は、高齢化に伴う抑制機能の低下は決して不可逆的なものではなく、トレーニングによって改善できること、また、この抑制機構の改善は、脳機能の改善にもつながる可能性を示している。これまでの脳のトレーニングは脳を活性化することに重点がおかれてきたが、我々は世界ではじめて脳の抑制機構を改善することで脳機能を向上させることができることを実証した。この研究は運動用品会社との共同研究として行われ、この研究で効果が実証されたコーディネーショントレーニングは、この会社が社会展開している高齢者向けの運動プログラムに実装され、社会還元されている。3.筋骨格モデルの構築(3D超音波イメージングの確立)個人ごとに異なる筋骨格形状を計測して精緻な筋骨格モデルを作成するには個人のMRI画像が有用であるが、計測が大掛かりでコストがかかるというデメリットもある。そこで、我々は2D超音波技術と3Dモーションキャプチャ技術を融合した3D 超音波イメージング技術(3DUS)を開発した。被験者の姿勢を型取り、全く同一の姿勢でMRIと3DUSで筋骨格形状を計測し、MRIモデルと3DUSモデルの誤差を評価したところ、表面間距離で平均約1 mmの誤差しかないことがわかった(図4)。つまり、3DUSは簡便かつ低コストで高精度な計測が可能であり、今後リハビリテーションやトレーニングなどの実応用への大きな貢献が期待できる。図2 3D視覚情報処理機構の解明正⽴顔倒⽴顔顔でないランダム形状正⽴顔の奥⾏き弁別は悪くなる正⽴顔と倒⽴顔の奥⾏き弁別成績の差V3活動から正⽴顔と倒⽴顔をデコードした成績奥⾏き知覚の中間処理領域(V3)で正⽴顔と倒⽴顔の情報が表現されている奥⾏き弁別成績→悪い図3 運動パフォーマンス向上技術の開発右⼿指の器⽤さが低下半球間抑制の低下が⼿の不器⽤さに関係左右半球間抑制のトレーニング両⼿のコーディネーショントレーニングトレーニング後トレーニング前不器⽤器⽤半球間抑制の指標強い弱い⾏動計測︓MRIによる脳計測︓半球間抑制の改善が器⽤さの改善に関係⾏動計測︓MRIによる脳計測︓小大半球間抑制の改善大小器⽤さの改善右⼿指の器⽤さが改善⾼齢者(65-75歳)もともと抑制が消失していた人図4 3D超音波イメージングの確立MRI計測3DUS計測3DUS画像から筋をセグメンテーション3DUSモデルを作成MRI画像から筋をセグメンテーションMRIモデルを作成姿勢を型取り、全く同じ姿勢でMRIと3DUSを計測3次元画像の構成3次元画像の構成棘上筋棘下筋三角筋表⾯間距離平均約1mmの誤差棘上筋棘下筋三角筋3.5.3 脳情報通信融合研究センター
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