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1273●フロンティアサイエンス分野ダイキン株式会社との共同で行われた。嗅覚刺激によるクロスモーダル現象は、香水のように香りによって自身や相手の気分を変える効果や、アロマセラピーのようなリラクゼーション効果などが知られており、嗅覚刺激のクロスモーダル効果は様々な場面で楽しまれているが、この嗅覚刺激を利用したクロスモーダル感覚の科学的研究は、いまだ発展途上であり、その効果は不明な点が多いのが現状であった。その主な理由として、嗅覚刺激の制御の難しさ、嗅覚刺激に対する感性評価の難しさなどが挙げられるが、今回、心理物理実験の手法やfMRI実験を駆使することで、香りで映像のスピード感が変わることを科学的に証明することに成功した。実験ではAroma Shooter(図2左上)を使用することで嗅覚刺激を制御し、心理物理実験の手法を用いることで、モーションドット(小さな動く白点、図2左下)の動きが、同じ速さの場合でも、レモンの香りが伴う時は遅く、バニラの香りが伴う時は速く感じることを発見した(図2真ん中)。また、fMRI実験では、香りによって視覚野(hMT: Human middle temporal, V1: The primary visual area)の脳活動が変わることも確認され(図2右)、クロスモーダル感覚が、心理学的、生理学的に証明された。香りによってなぜ映像のスピード感が変わるのか、時間感覚が変わるからか、注意の配分が変わるからか、その詳細なメカニズムは今後ひきつづき調査されることが期待される。嗅覚刺激によるクロスモーダル感覚はこれまで、脳の活動の中でも、感情や記憶のような高次の脳機能への影響が取りざたされることが多かったが、嗅覚刺激が映像のスピード感のような、脳の活動の中でも低次の知覚に影響を与えることが発見されたことは、嗅覚機能の基本的な役割の再考とともに、その学術的意義は大きいと思われる。今回の研究結果は、クロスモーダル感覚とは何か、感覚とは何か、ヒトの情報処理の特性を知る上で、非常に示唆に富んだ研究成果ということができる。本研究成果はFrontiers in Neuro‑science誌に掲載された。近年、脳科学や心理学研究のみならず、人間が日常生活の中で体験する感情、とりわけポジティブ感情への注目はますます高まっている。その背景には、感情が及ぼす影響は記憶や注意のような認知機能だけではなく、人の動機づけやウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態)とも深く関わっていると考えられるからである。本研究では、独自のクラウドシステムを開発し、毎日、感謝したことを書く「感謝日記」を記録することで大学生の学習モチベーションへの影響を調べた。実験参加者は84名の大学生で、「感謝日記」を書くグループと、書かないグループに、ランダムに振り分けた。どちらのグループの参加者も、それぞれの日常生活の中で、一日に一回、スマートフォンやPCから、クラウドシステムにアクセスした。クラウドシステムにログインすると、カレンダーが現れ、その日に行うことが示され、「感謝日記」の記述や、心理指標課題に取り組んだ。その結果、「感謝日記」を書くグループでは、学習モチベーションが有意に向上したことが分かった(図3A)。また1か月後と3か月後にフォローアップ調査を実施し、学習モチベーションの向上は3か月後まで維持されることも分った。これに対し、「感謝日記」を書かなかったグループでは、学習モチベーションの有意な変化はなかった。さらに、学習モチベーションを構成する3つの要因(内発的モチベーション、外発的モチベーション、無気力)のうち、「感謝日記」を書くグループでは、無気力要因が2週間で下がることが明らかになった(図3B)。2週間にわたって、毎日、感謝を記録する時間を持つことで、無気力度が下がり、学習モチベーションが上がることが実験で明らかになった。本研究成果はBMC Psychology誌に掲載された。図3 学習モチベーション(A)と無気力(BS)に関するスコアの変化図2今回の実験で使用した装置、視覚刺激、実験結果。左上: 実験に用いた嗅覚制御装置Aroma Shooter、左下: 心理物理実験での参加者が視聴する画面、中央: 心理物理実験によるスピード感の実験結果、右: fMRI実験による脳部位hMT、V1それぞれの脳活動の結果3.5.3 脳情報通信融合研究センター

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