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128■概要脳情報工学研究室では、行動・fMRIビッグデータに基づく社会脳モデルの研究、自然で多様な知覚・認知を扱う脳機能モデルの構築とその人工知能への応用を中心に、脳ネットワークの情報処理を脳データから解読しモデル化する研究開発を実施した。これらの技術と知見は、CiNet Brainをはじめとする将来の脳に学ぶICT技術に貢献することが期待できる。■令和3年度の成果各人の主観的幸福感とその人が持つソーシャルネットワークにおけるアクティブなコミュニケーションの量が相関することが報告されているが、その背後にある脳ネットワークメカニズムは未知であった。そこで、独自に開発したシステムにより収集した、大量のfMRIデータとTwitterデータに基づき、Twitter上のアクティブコミュニケーションの量と相関を示す安静時fMRIのネットワークを探索した。各ユーザーにReplyした相手の数で定義されるアクティブコミュニケーションの頻度を定義した。その結果、250名のTwitterユーザーの安静時fMRIを解析することで、言語関連の脳ネットワークと相手の心を読む「心の理論」の脳ネットワークの結合パターンから(図1A)、アクティブコミュニケーションの頻度を予測できることを発見した(図1B)。この結果は、社会脳のネットワーク状態が各人のアクティブコミュニケーションを規定し、その人の幸福感に影響を及ぼす可能性を示唆する。行動科学の知見として、自己の報酬を犠牲にして他の人や社会のためになる向社会行動を取る方が自己の報酬を重視する向自己行動を取るより反応時間が短いことが知られている。このことは、向自己行動が単純に報酬の最大化で行われていると考えると説明出来ないが、その脳ネットワークメカニズムは知られていなかった。最後通つう牒ちょうゲームと呼ばれる行動課題ではお金の配分に関する提案者の提案を被験者が受入れれば両者提案通りお金がもらえ、拒否すれば両者とも何も受け取れない。このゲームでは不公平な提案の受入れが向自己行動に、不公平な提案を拒否して提案者を罰することが向社会行動に対応する。今回、fMRI計測を行いながら最後通牒ゲームの実験を実施し(図2A)、被験者の行動を拡散過程モデルでモデル化することで、行動選択に不公平を考慮しない向自己的な人ほど前帯状回皮質が不公平に対し活動することを見出した。向自己的な人ほどこの前帯状回皮質の活動が不公平に対する扁桃体の活動を抑制することを発見した(図2B)。さらに2つの領域の抑制強度が反応時間を予測した(図2C)。今回の結果は、向自己行動が扁桃体の向社会な脳活動を抑制することで生じる可能性を示す。これらの研究に加え、ビッグデータを用いた社会脳の研究により、協力行動の主要な動機である、相手や社会の期待と実際の差を少なくしようとする傾向は平均的に男性で女性より強いことを示し、その脳ネットワーク相関として右背外側前頭前野と腹内側前頭前野の結合を同定した。ヒトは言語情報を音声でも文字でも理解できるモダリティ不図1Twitter上でのアクティブコミュニケーションと相関する脳ネットワークA 言語領域、心の理論に関連する安静時fMRIの結合と各Twitterユーザーにアクティブ・ネットワークサイズ(Replyを返す人数)が相関 B 言語領域、心の理論の安静時fMRIの結合から各ユーザーのアクティブ・ネットワークサイズを予測AB3.5.3.3脳情報工学研究室室長  春野 雅彦ほか20名脳ネットワークが行う情報処理を数理的に解読しモデル化する

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