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233●電磁波先進技術分野分解能化の手法を開発し、周波数帯域幅によらない高分解能化の可能性を示した。MP-DIALについては、実際に社会で広く使われる安価な装置開発のため、2 µm帯の種レーザーを内製で試作し(図2)、その波長制御に成功したほか、プロトタイプの常温動作パルスレーザーの開発も完了した。水蒸気観測における測定バイアスを±5 %に抑えることができるようになり、MP-DIALによる水蒸気観測実現の目途が立った。MP-PAWRに関して、AIP加速課題(JST)の枠組みで理化学研究所など複数機関と共同で東京オリンピック・パラリンピック大会期間中に富岳を用いた30秒ごとに更新する30分先までの超高速高性能降水予報のリアルタイム実証実験を行った。1,000個のアンサンブル予測を用いることで予報の不確実性を減らすとともに、ゲリラ豪雨の発生確率も予測できるようになった。また、SIP第2期の枠組みで防災科学研究所・日本気象協会などと密に協力しながらMP-PAWRを用いたリアルタイム気象予測を同大会組織委員会、都準備局に提供して実証実験を行ったほか、自治体や民間屋外イベントなどでも同様の実証実験を行った。また、AI技術(セマンティックセグメンテーション)を用いたデータ品質管理の手法をリアルタイムデータ配信に使えるように高速化したほか、AIを用いた短時間降水ナウキャストの研究開発も進めている。地デジ放送波を用いた水蒸気量観測について、SIP第2期の枠組みで民間企業と共同で線状降水帯を主な対象として九州に観測装置の展開を進め、15地点の観測網が完成した。また得られたデータを収集配信するクラウドシステムを構築したほか、得られたデータを同化して面的水蒸気分布の現況を表示するシステムを構築中である。海外方式の地デジ放送波に対応するシステム開発として欧州方式(欧州・東南アジア・一部アフリカ等)に対応した装置が完成した。WPRに関して、アダプティブクラッタ抑圧(ACS)でヘリコプターからのクラッタエコーを抑圧することに成功した(図3)。これは気象庁との共同研究や、NICT委託研究による民間企業との共同研究の成果であり、ACS機能付きWPRの普及に向けた実用的な性能アピールにつながるものである。また、WPRについてISO国際規格策定に向けた議論をNICTが主導しており、最終国際規格案(FDIS)を作成する段階にある。Pi-SARやMP-PAWRなどの高機能センサで取得される大容量データを効率的にユーザに届けて利活用を促進するために、リモートセンシング技術のユーザ最適型データ提供に関する要素技術の検討に着手し、次年度からの研究体制を構築した。2.グローバルセンシング技術EarthCARE衛星の打ち上げ後の地上校正に向けて、能動型校正装置(ARC)の改修を実施しているほか、地上検証用のW帯高感度雲レーダー(HG-SPIDER)の連続観測を実施し、雲鉛直分布やその鉛直速度などのデータを1年以上蓄積している(図4)。EarthCARE衛星搭載雲レーダー(CPR)のデータ処理アルゴリズムの評価・改良として、ドップラー速度の水平積分及び折返し補正手法による誤差低減の評価を全球レベルで実施した。次世代衛星搭載降水レーダーで検討されているドップラー観測について、二つの観測手法の検証を行った。そのうちの一つのDPCA (Displaced Phase Center Antenna)方式について、Pi-SAR2によってDPCA条件で取得された過去のデータを用いて、同方式で移動体速度に起因するバイアス誤差を効果的に低減できることを実証した。大気エコークラッタ図4 HG-SPIDERによる雲鉛直分布の連続観測例(2021年5月)図3 WPRによるクラッタエコー抑圧の例 ヘリコプターからのクラッタエコーが混入したドップラースペクトル(a)からACSにより大気エコーを抽出(b)3.1.1 電磁波伝搬研究センター

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