28■概要人工システムが、電磁環境を汚染し他に妨害を与えるような不要電磁エネルギーを放出することも、また同時に電磁環境の影響を受けることもなく、その性能を十分に発揮できる能力を電磁的両立性(Electromagnetic Compatibility: EMC)と呼ぶ。電磁環境研究室では、高度化した通信機器と電気電子機器の相互運用の実現や新たな無線システム等の安全・安心な利用を実施するために、先端EMC計測技術と生体EMC技術の研究開発を行っている。また、大学・研究機関等との研究ネットワーク構築や共同研究の実施等により、電磁環境技術に関する国内の中核的研究機関としての役割を果たすとともに、研究開発で得られた知見や経験に基づき、国際標準化活動や国内外技術基準の策定等に寄与している。さらに、機構法第14 条第1項第5号で規定されている、高周波利用設備を含む無線設備の機器の試験及び較正に関する業務を継続的かつ安定的に実施している。■令和3年度の成果1.先端EMC計測技術国際規格における電気電子機器の電磁妨害波許容値は、干渉を受ける無線通信端末と雑音源となる電気電子機器とが1対1(1:1)の電磁干渉確率モデルに基づいて決定されているが、電気電子機器の普及に伴い、複数の雑音源を想定した1:Nモデル導入の必要性が指摘されている。そこで、複数の広帯域電磁雑音源がある場合の電磁雑音許容値を設定するために、一台の無線通信端末の周囲に複数の電磁雑音源が一様に分布する2次元1:Nモデルにおいて、電磁雑音源の世帯普及率に応じた電磁雑音受信電力の統計分布を導出し、雑音源が一つの場合と比較して、電磁雑音の集積効果を明らかにした(図1)。この成果が2件の国際学術論文として掲載・採録されたほか、成果の一部を国際標準化寄与文書として電磁妨害波の許容値設定モデルを所掌とする国際電磁障害特別委員会(CISPR)へ提出した。本成果により、広帯域に複数の電磁雑音源がある場合の雑音許容値の設定式に必要となるパラメータ等について今後の検討が可能となり、スマートシティなどにおいて問題化すると見込まれる複数雑音源による電磁障害を防止するための国際的な議論を大きく進めることができた。電気自動車(EV)等において導入が見込まれるワイヤレス電力伝送(Wireless Power Transfer:WPT)やLED照明等の普及において重要となる、30 MHz以下の放射妨害波測定に用いるループアンテナの新しい較正方法を開発し、CISPR国際規格の策定に大きく寄与した。この国際規格は令和4年3月に発行されている。また同時に開発した標準ループアンテナについても、CISPR国際規格に反映させるための活動を行った。さらに、開発した図1 無線端末周辺に複数の雑音源が配置された2次元1:Nモデル(左図)における雑音受信電力の確率密度分布グラフ(右図) 単一雑音源の場合(青色)に比べて、複数雑音源の場合(黄色)の集積効果が明らかである。0.000.050.100.15-60-50-40-30-20-100Probability densityNormalized received power (dB)無線端末雑音源保護領域無線端末がある家屋敷地に相当する保護領域を円形で想定し、領域内に雑⾳源はないと想定する。雑⾳受信雑⾳電⼒相対値(dB)0.15確率密度0.100.05-600.00-50-40-30-20-100無線保護に必要な基準値敷地面積300 m2/世帯ヒストグラム︓モンテカルロシミュレーション結果複数雑⾳源複数雑⾳源直近の1雑⾳源直近の1雑⾳源世帯普及率10%世帯普及率100%3.1.2.1電磁環境研究室室長 渡邊 聡一ほか29名最新の電波利用に対応した電磁環境構築のための研究開発と業務
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