30■概要時空標準研究室は、正確な時刻と周波数を生成・維持・供給する日本標準時の業務を通して情報通信システムの維持・発展を支え、また精密物理計測の基盤を提供している。国家標準・国際標準の進化に向けては、光周波数標準による標準周波数の高精度化や、複数の局に配置された原子時計を使い尽くす分散化時系の開発を行うとともに、2030年頃に想定される秒の再定義への貢献を目指す。また、多彩な時空標準技術を転用して開発した双方向無線時空間測定技術(ワイワイ)、原子時計チップ(CLIFS)、及びTHz域における周波数標準・計測技術等について次世代無線通信技術(Beyond 5G)での利用を提案して行くとともに、相対論的測地技術や量子ネットワーク技術等、2030年以降の発展が期待される未踏領域の研究開発にも挑戦していく。令和3年度は第5期中長期計画の最初の年であり、日本標準時や国際原子時への光格子時計技術の一部導入や、Beyond 5Gへの提案のための大学や民間企業を巻き込んだ連携研究の成果を複数得た。■令和3年度の成果1.標準時及び周波数標準の発生と供給に関する業務日本標準時の発生を協定世界時からの誤差20 ナノ秒の範囲内で安定に維持した。標準時運用における非常時対応マニュアルを定期的に改訂し、災害を想定した神戸副局ヘの標準時マスタ局切替訓練を年度内に2回実施した。日本標準時の供給では、標準電波の送信を2局体制で安定に維持し、年度全体の送信時間率99.9%以上で安定に運用した。公開NTPサービスでは1日あたり最大で80億回を超えるアクセスに対応した。光電話回線による時刻供給(光テレホンJJY)アクセス数が令和4年3月に月間12万を超えアナログ回線を上回った。光テレホンJJYと公開NTPは本部に加え神戸副局からも時刻供給しており、十分な冗長性を持つサービスとしている。NICTの開発した衛星双方向通信モデムを使い、韓国・台湾の標準機関との間で衛星双方向方式(TWSTFT)による高精度周波数比較の運用を行い、比較データを国際度量衡局に提出した。次世代通信モデムについてはドイツPTBやフランスOPなどの機関が導入を検討しており、NICT発の高精度計測技術の国際的な普及促進を図っている。また、国際的な活動として国際度量衡委員会時間周波数諮問委員会において、秒の再定義についてのロードマップ策定等に継続的に関わり、ITU-R SG7においては日本代表としてうるう秒の廃止に関する議論等に参加した。2.次世代日本標準時システムの開発標準時分散化システムの構築では、引き続き神戸副局にて日本標準時に同期した時系信号を安定に維持した。光周波数標準においては、令和3年7月から令和4年3月まで、週1回以上の頻度で間欠運用を継続し、結果を国際度量衡局に報告して、協定世界時の歩度校正を8か月間連続で行った。また令和3年12月には毎週2回以上の運転を行い、これまでのセシウム一次周波数標準を含めて最も小さい不確かさ1.9×10−16でUTCの歩度校正を行った(図1)。光格子時計の運用データは日本標準時の歩度を維持するための周波数調整にも参照され、標準時の安定運用への寄与を開始した。光有線/無線に対応した標準周波数伝送システムについては、日本標準時の周波数と時刻信号を劣化させずに光ファイバで配信するシステムを開発し、JGNの光ファイバテストベッドを利用し東京大学への常時配信を開始した。時空標準研究室で開発した衛星双方向通信モデムを用いて伝送先の東京大学で得られる信号との時刻差を計測し、開発した配信システムで両拠点が13ナノ秒以図1 光格子時計による協定世界時の歩度校正-15-10-5051015 NICT:Sr光格子 各国CsRbマイクロ波標準 KRISS(韓):Yb光格子 NMIJ(日):Yb光格子UTCの周波数誤差 (x10-16) (BIPM決定)UTC校正値4/13/31令和3年度3.1.2.2時空標準研究室室長 井戸 哲也ほか28名高精度な周波数と時刻を生成・維持、そして供給する技術の開発
元のページ ../index.html#38