34■概要デジタル光学基盤研究室では、ホログラムプリント技術による光の回折を利用した高機能な光学素子の研究開発を行い、Beyond 5G時代を支える高効率・安価な光通信用モジュール、ヘッドアップディスプレイ、次世代ARシステムなど各種の光デバイスの実用化に向けた技術移転を進めるとともに、デジタルホログラムによる精密光学測定技術の研究開発を行い、顕微鏡などへの応用を通じて産業展開を促進している。光デバイス技術は我が国が強みを有する分野のひとつだが、Beyond 5Gに向けての光通信技術の国際競争加速や、急速なXR技術(AR, VR, MR技術の総称)の進展などに伴って、今後の競争力維持に向けた光デバイス自体の高度化、デジタル化が急がれている。ホログラムプリント技術においては、数値計算ホログラフィを主体としたデジタル技術を用いて、回折光学技術を高度化することにより、現代社会の様々なニーズに適合させる取り組みを行っている。デジタル設計された光学機能を1 枚の薄型デバイスで実現するホログラフィック光学素子(HOE)は、次世代の光産業に貢献が期待される素子として、波長選択性や大口径対応などの優れた機能と特徴を有している。HOE をデジタル領域で高精度かつ安定的に製造する波面プリント技術の研究開発は、今後の光デバイス分野の発展に大きく寄与すると期待される。透明な試料の測定技術は、生命科学分野をはじめとする生体細胞の無染色な定量測定をはじめ、広く科学技術全般及び産業界において特に重要視されている。精密光学測定技術においては、試料の3次元情報を、デジタルホログラフィ技術を中心とした光の波長程度の分解能を持つ撮影技術を新たに開発することにより、従来は導入のハードルとなっていたホログラムデータに関する計算量を現実的なレベルに収めることや、撮像系の高S/N化・低ノイズ化を実現するなどの取組を通じて、透明位相物体を定量的に観測できるホログラム顕微鏡の開発など、実用技術の確立に向けた研究開発をしている。顕微鏡の歴史は長く、従来から共焦点顕微鏡や位相差顕微鏡などの個別の技術は存在していたが、イメージセンサを撮像面として用い、ホログラフィ技術による光の逆伝搬を計算することで被写体像を得る革新的なデジタルホログラフィ技術の開発により、例えば複数の種類の顕微鏡を組み合わせることなく、一括で被写体像を得ることができ効率的になった。また、被写体を波長精度で定量的に位相計測することができるなどの発展が期待される。■令和3年度の成果】1.ホログラムプリント技術令和3年度は、ホログラムプリント技術の高精度化、安定化に関する研究開発を行った。露光装置に起因してホログラムセル内に生じる波面収差を推定し補償する方法を開発し、作製されるホログラフィック光学素子の光学機能の高精度化を実現した(図1)。また記録波長に対し十分に高精度の位置決めをするプリンタを整備する事等により、100 mm四方程度の反射型ホログラフィック光学素子を安定的にプリントできる露光設備を整備した。また、ホログラムを記録する露光材料について、将来の実用化に向けて重要となる耐候性の向上を目的とした取組を行った。これらの成果によって、高精度かつ安定的なホログラフィック光学素子の製造が可能となり、XR技術に組み込むための透明な光学スクリーンや光通信デバイスに組み込むための光学素子の実現への貢献が期待される。2.光通信用モジュールプリントした光学素子の応用のひとつとして、HOEの光通信用モジュールへの実装を目指している。令和3年度は、光通信用モジュールの光学系の小型化・軽量化に寄与する、ホログラムデータの基礎設計を行った(図2)。また通信用の波長帯域(850 nm)におけるホログラムデータの基本的な設計に取り組み、材料の厚さを400 μmと仮定してシミュレーションを行った。移動体から送出される信号を効率よく受信するために、2枚の駆動鏡を用いて信号を追尾する精追尾機構を用いた空間光通信装置のビットエラーレート(BER)値等を参照することにより、十分な強度でかつBERが10-12を下回る角度幅を求めた。その結果、5多重記録で±0.06度に相当する性能を得た。これは多重記録をしなかった場合3.1.3.1デジタル光学基盤研究室室長 大井 隆太朗ほか4名回折光学技術とデジタル技術の融合による新しい光学を拓ひらくために
元のページ ../index.html#42