52■概要Beyond 5G(B5G)時代の無線通信基盤は、5Gの3つの性能要件である高速大容量、超低遅延・高信頼、多数接続の進化に加え、自律性や拡張性等の新たな機能追加による更なる発展が求められている。これは、社会構造の変革に伴い無線通信の活用シーンがドローン/ロボット、高度道路交通システム(ITS)等のモノ主体システムへ発展的に展開する中、多様化する性能・品質要求に応える基幹インフラとしての役割が求められるためである。大規模かつ複雑なモノ主体システムを実現するための喫緊の課題としては、異なる性能の無線アクセスを技術面・リソース面で様々に連携させ、ネットワーク全体でこれらの要件を満たすための技術確立が挙げられる。また、技術開発においては、設計・検証・評価に必要なコストや期間の増大を解決する必要があり、サイバーフィジカル連携技術等を活用した新しい無線評価技術が求められる。さらに宇宙空間をも含む人間の社会活動領域の拡張を加速するため、空中や海中など極限環境をも想定した無線エリアの拡張や、衛星通信等の非地上系ネットワークとの連携等、挑戦的な課題への取り組みを推進する必要がある。ワイヤレスシステム研究室では、地上系電波利用の有効な提言を行う唯一の国立研究開発機関であるNICTの役割を念頭に、国内電波産業界とも密な連携を図りつつ、標準化・認証等を経て成果の社会展開を図ることを目標として先進的な研究開発を推進している。具体的には、1 .サイバー空間とフィジカル空間との効率的な連携を検証する無線システム評価技術、2 .端末・基地局間連携を推進する高度無線アクセスシステム、3 .モビリティ制御・無線エリア拡張技術の研究開発をサブプロジェクトに設定し、研究開発を進めている。■令和3年度の成果令和3年度は、上述の3つのサブプロジェクトにおいて、それぞれ次のような成果を上げた。1.サイバー空間とフィジカル空間との効率的な連携を検証する無線システム評価技術サイバー空間上で電波システムを模擬し、低コスト、短時間で次世代システムの評価・検証を可能とするワイヤレスエミュレータの開発を国内10機関及び総合テストベッド研究開発推進センターと共同で実施し、WPMC2021等で成果発表を行った。また、「ワイヤレスエミュレータ利活用社会推進フォーラム」の設立に寄与するとともに、「ワイヤレスエミュレータ利活用シンポジウム」において、ITSやスマートオフィス等の利活用シナリオを想定したデモを実施した。B5Gの広帯域システムを想定し、130%の比帯域を有する帯状広帯域アンテナを試作開発した成果がJ. Eng.に採録された。また、330 GHzまでのテラヘルツ帯の屋内環境電波伝搬モデル開発に資する電波測定実験等を実施し、AWGに3件、ITU-Rに11件、IEEE 802に1件、計15件の提案を行い、周波数分配に対する国際標準化に寄与した。柔軟かつオンデマンドな無線ネットワーク実現を目指し、過密な利用が想定される将来のミリ波ネットワークにおいて移動基地局の導入を想定し、固定基地局との混在環境において、移動基地局の最適配置・選択により通信容量が70%以上向上できることを示した論文がIEEE Open J. Commun. Socに採録された(図1)。また、スマート電子カーブミラーで取得した実環境情報に基づき、緊急性の高い交通情報伝送への無線リソース優先割当手法の有効性を示した論文がElsevier Veh. Commun.に採録された。2.端末・基地局間連携を推進する高度無線アクセスシステム異種ネットワーク連携技術として、営業列車を用いた自営網-公衆網高速接続切替実証の成果がIEICE英文誌の5G/B5Gトライアル及び概念実証の特集号に採択され図1 ミリ波ネットワークにおける移動基地局混在環境の概念3.2.4.1ワイヤレスシステム研究室室長 松村 武ほか27名Beyond 5G時代の社会を支える高度通信インフラを目指した研究開発
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