56■概要本研究センターは、東日本大震災の教訓を活いかして災害に強いICTの研究開発を行うために平成24年度に発足した耐災害ICT研究センターを継承し、令和3年度に体制を整備して活動を開始した組織である(図1)。本研究センターは3室で構成されている。第5期中長期目標期間において、大規模災害や障害等の様々な事象によって引き起こされる非連続な変化に対応が可能な、ネットワークの障害検知・予測及び適応制御技術、IoT 等による柔軟な情報収集及び総合的な可視化・解析の基盤技術等、持続性に優れたレジリエントICT基盤技術の研究開発を担当する「サステナブルICTシステム研究室」及び「ロバスト光ネットワーク基盤研究室」並びに産学官連携やガイドライン策定等を通じて研究成果の社会実装を促進し国土強靭化に向けた取組の推進を担う「企画連携推進室」である。■主な記事1.レジリエンスに対する社会的要請世界各地で地震、津波、台風、地滑り、洪水、豪雪、猛暑、火山噴火、感染症などの脅威が頻発・激甚化し、人命や社会インフラが失われている。こうした脅威に備え、影響をできるだけ抑制し、速やかに回復させる「レジリエント」な社会の実現が求められている。国連が提唱するSDGsでもレジリエントなインフラ構築やレジリエントな都市と人間の居住地が明示的に謳われている。2.本研究センターの取組概要このような背景から、本研究センターでは「ICTで世界をレジリエントに」をキャッチフレーズに、前述の3室体制により研究開発とその成果の社会利用推進に取り組み始めた。研究開発のテーマは、大別するとレジリエントな性質を備えたICTと世界をレジリエントにするためのICTになる。前者は三つで構成される。一つ目は、従来の無線通信技術では通信が困難だった「タフ」な電波環境でも低遅延・高信頼な通信を提供することを目指したタフ環境適応無線アクセス技術である。5G(3GPP Release17)が規定する伝搬損失よりも損失が大きな環境の他、電波が過密、伝搬が複雑といったタフな電波環境でも、回線が切れる前に他の回線を確立させることで通信を提供し続けることを目指している(サステナブルICTシステム研究室)。二つ目は光ネットワークのレジリエンシー向上技術である。光ネットワークの障害の予兆までも機械学習等を適用して検知しかつ障害を能動的に回避する技術、規格のオープン化に伴って難しくなる相互接続や統合利用を可能にしてレジリエンシーを高める相互接続基盤技術、そして通信ネットワーク資源だけではなく計算(クラウド)資源をも含めて需給マッチングを図り障害復旧を迅速化する通信資源・計算資源連携基盤技術を研究開発していく(ロバスト光ネットワーク基盤研究室)。三つ目はこれらのレジリエントなネットワークの上で機能するエッジクラウドを対象とした技術である。現在の情報サービスはクラウド方式が主流であり、災害時の情報ICT で世界をレジリエントに1.研究開発︓レジリエントな性質を備えたICT、世界をレジリエントにするためのICT2.国⼟強靭化︓産学官・地域連携等による成果の社会利⽤の推進大学・研究機関企業、NPO等を含む⺠間セクター国・地方公共団体公共セクター共同研究等成果の技術移転利⽤者ニーズ把握利⽤者参加実証実験総合防災訓練等での成果活⽤共同研究等協議会等の産学官連携活動標準モデルやガイドライン策定レジリエントICT研究センター産学官連携・国内地域連携・国際連携による研究開発・イノベーションとレジリエンスの推進タフフィジカル空間障害監視制御管理光ネットワークのテレメトリ・制御高度化技術ネットワーク資源のオープン化による相互接続基盤技術通信・計算資源の連携基盤技術利用可能な資源を自律的に発見しサービスを再構成する自己産出型エッジクラウド基盤技術通信が途切れる前に回線を確立するタフ環境適応無線アクセス技術レジリエント自然環境計測可視化・解析技術図1 レジリエントICT研究センターの概要3.2.5レジリエントICT研究センター研究センター長 井上 真杉
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