70■概要セキュリティ基盤研究室では、第5期中長期計画のサイバーセキュリティ分野における「暗号技術」に示されている下記の2つの課題の研究開発に取り組んでいる。1.安全なデータ利活用技術データの提供・収集・保管・解析・展開の各段階におけるセキュリティやプライバシーを確保するため、匿名認証や検索可能暗号等のアクセス制御技術、秘匿計算等のプライバシー保護解析技術等の研究開発を行う。これらを用いて組織横断的な連携を含むデータ利活用を促進するとともに、安全なテレワーク等の社会的な課題解決に貢献する。2.量子コンピュータ時代に向けた暗号技術の安全性評価量子コンピュータ時代でも安全に利用できる暗号基盤技術の確立を目指し、耐量子計算機暗号を含む新たな暗号技術及び電子政府システム等において使用される暗号技術の安全性評価に関する研究開発を実施する。具体的には、将来的に耐量子計算機暗号として世界標準となることが予想される格子暗号、多変数公開鍵暗号等や、現在広く使用されている RSA 暗号、楕円曲線暗号等の安全性評価について取り組み、世界最先端の評価技術によって国民生活を支える様々なシステムの安全な運用に貢献する。■令和3年度の成果1.安全なデータ利活用技術・金融機関等と連携し、AIを活用したプライバシー保護データ解析技術として、複数の参加者が持つデータセットを互いに秘匿したまま深層学習を行うプライバシー保護深層学習システム(DeepProtect)の社会実装を進め、秘匿協調学習社会展開の環境構築のための法的(個人情報保護法)課題の整理、プラットフォームの整備や技術移転、プライバシー保護連合学習技術の充実化や通信の効率向上を実施するなど、実証実験実施のビジネス化に向けた取り組みを行った。また、プライバシーポリシーのユーザ理解支援ツールを構築して、実プライバシーポリシーを対象とした実証実験を行った(図1)。・テレワーク時代に有用なEnd-to-End Encryption(E2EE)の機能強化のため、検索可能暗号・匿名認証に関して研究開発及びライブラリ化を進めた。具体的に、前年度構築した検索可能暗号を用いたセキュアストレージシステムとセキュアチャットシステムの改修を行い、E2EE機能を満たすシステムを構築した。またNHKとの共同研究では、E2EEを実現するセキュアグループメッセージングについて、放送サービスに適した方式及び参加者情報を秘匿する方式を提案し、それぞれ国内会議CSS2021/SCIS2022で発表するともに、特許出願を行った。またTIS株式会社との共同研究では、キャッシュサーバが通信内容を閲覧することなくキャッシュサービスを提供可能な暗号化キャッシュ技術について、耐量子計算機暗号(格子、符号、同種写像)にて設計・実装性能の評価を行った。また匿名認証などプライバシー保護とデータ利活用の実現に有用なゼロ知識証明について、効率と安全性を両立させ、より広い分野の複雑なステートメントにも適用可能な方式を提案し、暗号理論研究の分野の難関国際会議 TCC2021 に採録された。複数組織による高効率な秘密計算を可能とする乗法的秘密分散について、組織間で異なるセキュリティポリシー(データの秘匿・公開の条件)を可能とするための条件を世界で初めて解明し、具体的な構成法を示した成果が、電子情報通信学会2021年EMM優秀研究賞を受賞した。・アクセス制御の一つである改ざん防止技術に関して、研究開発及び実利用を想定した実験などを進めた。具体的に、NewSpaceと呼ばれる宇宙開発におけるセキュ図1 プライバシーポリシーを対象とした実証実験の概要3.3.2セキュリティ基盤研究室室長 野島 良ほか18名ネットワークのセキュリティを根幹から支える暗号技術の研究開発
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