84■概要ユニバーサルコミュニケーション研究所(UCRI)では、誰もが分かり合えるユニバーサルコミュニケーションの実現を目指して、音声、テキスト、センサーデータ等の膨大なデータを用いた深層学習技術等の先端技術により、多言語コミュニケーション技術、社会知コミュニケーション技術、スマートデータ利活用基盤技術の研究開発を実施している。また、多様なユーザインターフェースに対応したシステムの社会実装の推進等に取り組んでいる。これらにより、Beyond 5G時代に向けて、ICTを活用した様々な社会課題の解決や新たな価値創造等に貢献することを目指している。研究開発の具体的な内容は、本年報中、3.4.1 先進的音声翻訳研究開発推進センター、3.4.2 データ駆動知能システム研究センター、3.4.3 統合ビッグデータ研究センター、3.4.4 先進的リアリティ技術総合研究室の項を参照いただきたい。以下では、研究開発の主な成果と、成果の社会展開・地域連携活動について記載する。■主な記事1.多言語コミュニケーション技術の研究開発グローバルコミュニケーション計画2025(令和2年3月31日、総務省)*1に基づき、同時通訳技術の研究開発を進め、チャンク(文より短い翻訳単位)を深層学習した分割モデルに従って翻訳するアルゴリズムを開発した。音声合成では、GPGPUを使用する方式に迫る、CPU版の高品質音声合成モデルを開発した。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会では、NICTの技術を活用した製品・サービスが活用されるとともに、同時通訳プロトタイプデモシステムを用いた実証実験も行われた。NICTの音声翻訳技術の多分野での活用も拡大している。2.社会知コミュニケーション技術の研究開発自動並列化深層学習ミドルウェアRaNNCの高度化を行い、さらにPyTorch Annual Hackathon 2021で1位を獲得した。詳細で正確な意味的関係を抽出する技術を開発し、世界最大規模の日本語の意味的関係知識を獲得した。これを用いて、複雑な文間の意味的関係の仮説を生成する技術も開発した。高齢者介護支援用マルチモーダル音声対話システムMICSUSの研究開発を進め、実証実験を実施し、YES/NOの意味解釈を94.3%というほぼ完璧な精度で行うという良好な結果を得た。防災用チャットボットSOCDAは商用化が進展し、実災害でも活用された。3.スマートデータ利活用基盤技術の研究開発プライベートデータを保護したまま予測の性能改善を図る連合型データ連携分析について、新たな連合学習方式を設計し、エッジ、プラットフォームの双方で学習性能を改善できることを示した。複合イベント予測について新たな手法を開発し、異常気象等による混雑の時系列発生パターンの予測等で、予測精度と処理速度を同時に向上させた。これまでに研究開発した成果をxDataプラットフォームの情報資産として整理し、ASEAN IVOなどで利活用拡大に向けた活動を進めた。また、事業者と連携した自治体とのパイロット試験を実施した。4.先進的リアリティ技術の研究開発カメラ1台の映像から個人のリアルな3Dアバターを構築し、表情や動作を豊かに再現するREXR(Realistic and EXpressive avataR:レクサー)技術を開発し、報道発表を行った。本技術では、特殊なセンサや多数のカメラは不要であり、複数のAIモジュールを連動させて身体と顔の統合モデルを構築する。また、「Beyond 5GとXR技術の融合」をテーマとして産学官連携を進め、戦略的プログラムオフィスと共にURCF(超臨場感コミュニケーション産学官フォーラム)内に「XR遠隔コミュニケーションWG」を発足させた。5.国のAI戦略への貢献第5期中長期計画の開始にあたり、NICTではAIを戦略的に進めるべき研究領域の1つとして位置づけ、UCRIにAI研究開発本部を設置した。AI研究開発本部では、CiNet等のNICT内の他研究所及び経営企画部と連携して、国の定めるAI戦略2021*2(令和3年6月11日、統合イノベーション戦略推進会議)に基づき、それに貢献する研究開発を推進している。また、産業技術総合研究所及び理化学研究所と共に「人工知能研究開発ネットワーク」に中核センター群として参画し、情報発信等の活動3.4ユニバーサルコミュニケーション研究所研究所長 内元 清貴
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