86■概要先進的音声翻訳研究開発推進センター(ASTREC)は、世界の「言葉の壁」をなくし、グローバルで自由な交流を実現することを目的としたグローバルコミュニケーション計画*1に基づき、多言語音声翻訳技術の研究開発及び社会実装を推進してきた。令和2年3月には、2025年に向けたAIによる「同時通訳」の実現など多言語翻訳技術の更なる高度化を推進する目的で、総務省施策グローバルコミュニケーション計画2025*2(以下、「GC計画2025」という。)が発表された。令和3年度からの第5期中長期計画では、GC計画2025に基づき、文脈や話者の意図、周囲の状況等の多様な情報源も活用した、ビジネスや国際会議等の場面においても利用可能な実用レベルの自動同時通訳を実現する多言語コミュニケーション技術を研究開発している。これらの具体的な内容は、本年報中、3.4.1.1先進的音声技術研究室、3.4.1.2先進的翻訳技術研究室の項を参照いただきたい。社会実装においては、令和3年度は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「東京2020大会」という。)期間中、VoiceTraをはじめNICTの技術を使ったシステムが活用されたほか、競技会場における実証実験も実施した。さらに、音声翻訳の精度向上と対応言語数及び対応分野の拡充、同時通訳技術の研究開発成果を用いたデモシステムの開発、外部機関との実証実験を実施し、NICTの技術の利用が更に拡大した。■主な記事1.東京2020大会における活用東京2020大会において、ボランティア向けの冊子にVoiceTraや、NICTの技術を活用した“はなして翻訳(NTTドコモ)”、こえとら(フィート)が紹介され、活用された。VoiceTraは、都内の競技会場や選手村周辺で、大会前後と比較して1,000件/日程度多く利用されたと推定される(図1)。NICTの技術を利用しているPOCKETALK(ポケトーク)も、都内の競技会場や選手村等に約300台配備され、活用された。また、総務省からの受託研究「多言語翻訳技術の高度化に関する研究開発」の枠組で、ヤマハと協力して、日本語・英語のMCアナウンサーの音声を、NICTの技術を用いて文字化・配信する実証実験を行い、約40のほとんどの会場にて活用された。NICTは、大会前の組織委員会のイベントにも協力しており、東京都とも各種イベントでのVoiceTra実証実験、多言語字幕付与実験や出展等を行ってきた。このような活動が評価され、NICT及びNICTが事務局をつとめるグローバルコミュニケーション開発推進協議会(以下、「GCP協議会」という。)*3は、大会後、東京2020大会組織委員会より感謝状を頂いた(図2)。2.産学官連携による研究開発と社会実装への取組GCP協議会は、産学官の力を集結して、GC計画2025の推進に資することを目的に活動している。令和3年度は、総会、普及促進部会、技術部会に加え、令和4年3月に一般も対象とした自動翻訳シンポジウムを開催し、約570名が参加した。また、同時通訳技術のアピールとし図2 東京2020大会組織委員会からの感謝状図1 東京2020大会におけるVoiceTraの利用状況3.4.1先進的音声翻訳研究開発推進センター研究開発推進センター長(兼務) 内元 清貴
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