FEATURESDGsテック特集ABCDEFGabcdefgABCDEFGabcdefg時間を短縮できます。実は、MICSUSの本当の狙いは、介護モニタリングの一部代替を超えたところにあります。MICSUSはいつでも対話に応じられ、現在の月一回というヒアリング頻度にこだわる必要はありません。場合によっては、毎日、高齢者と対話し、よりタイムリーな情報を取得することで、介護の質向上にも貢献できます。加えて、介護職は多岐にわたる健康状態のチェックはMICSUSに任せ、人間が介在すべき重要な事案に関する相談に集中できます。また、高齢者の死亡率を増大させるとして、近年、深刻な問題となっている社会的孤立、コミュニケーション不足の回避、抑制にも、Web情報を使った雑談の提供等で貢献できるのではないかと考えています。最近では、介護施設に居住されている高齢者に15日間、毎日5分から15分ほどの対話を行ってもらう実証実験を行い、極めて高い精度で健康状態等がチェックできることが分かりました(図)。今後、更に実証実験を重ね、完成度を上げていきます。MICSUSは他分野、例えば教育分野にも応用可能と考えています。NICTの高度な質問応答技術*4、つまり、例えば、「日本が第二次世界大戦後、急速に復興したのはなぜ?」や「地球温暖化が進むとどうなる?」といった質問に答える技術等を活用しつつ、子どもと歴史に関する対話を行い、知識を習得してもらうといった応用が考えられます。この際、暗記すべき事実に関するクイズを行うといった単純な話ではなく、様々な歴史の背景にある因果関係等に関してMICSUSと議論をしてもらい、大人になった際に必要な成熟した意思決定能力を育んでもらうといった応用も可能になるのではないかと考えます。*1音声だけでなくユーザの表情や仕草なども認識して対話に活用する*2ケアマネジャー等の介護支援専門員の知見を共通化・体系化することで利用者が必要とするケアマネジメントを一定以上の水準で提供できるようにするための手法 https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=38679*3システムの動作は、https://www.youtube.com/watch?v=gCUrC3f9-Goやhttps://keihanna-fair.jp/exhibition/ai/899で動画がご覧になれます。*4大規模Web情報分析システムWISDOM Xとして公開中。https://www.wisdom-nict.jp/から誰でも無料でご利用いただけます。支援、要介護の高齢者の自宅などをケアマネジャーという資格を持つ介護職が訪問し、健康状態や生活習慣などをヒアリングする作業を介護モニタリングと呼びます。これによって得られた情報は介護プランの立案等で利用されますが、最低月1回実施されることになっており、1時間程度はかかる上、移動やレポート作成も合わせると通常数十名を受け持つケアマネジャーの勤務時間の6割を占めると言われています。マルチモーダル*1音声対話システムMICSUSは、この介護モニタリングを一部代替する対話システムとして、内閣府SIP第二期の支援により、NICTがKDDI株式会社、NECソリューションイノベータ株式会社、株式会社日本総合研究所と共同で開発しているものであり、ケアマネジメント標準*2に基づき、犬型端末が音声対話を介して、高齢者の健康状態等のヒアリングを行います。また、顔画像から高齢者の感情等も認識し、対話で活用します*3。対話は、Web等の情報を使った多様な雑談(例えば、高齢者の好きな食べ物の美味しい食べ方から、音楽鑑賞等の趣味の話まで)を交えつつシステムが健康状態等に関する質問を高齢者に投げかけることで進みますが、高齢者の応答は最新の深層学習技術により解釈され、例えば、質問「毎日ご飯3食食べていますか?」に対して「最近、胃腸の調子が良くてねえ」といった遠回しな回答を行っても高精度に解釈されます。また、対話の結果は、「毎日ご飯3食食べている」といった簡潔な要約として介護職に提示され、介護プラン立案に要する要高齢者介護支援のためのマルチモーダル音声対話システムの研究開発水野 淳太(みずの じゅんた)ユニバーサルコミュニケーション研究所 データ駆動知能システム研究センター 主任研究員図 実証実験での高齢者とMICSUSの対話の様子NICT NEWS 2022 No.310
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