FEATURESDGsテック特集ABCDEFGabcdefgABCDEFGabcdefgインターゲットとし、ゲノムデータと電子カルテデータを用い、量子セキュアクラウドの社会実装に向けた検証を進めています。電子カルテデータを量子セキュアクラウド内に分散保管のデモを実施し、都内公的病院の日々のトランザクションデータの更新を高速に分散保管する技術や、複数の地域医療連携機関同士のデータの相互参照にも成功しています。さらに我が国は近年、大規模災害が毎年のように発生していますが、そのような災害で病院のカルテデータが被災した場合を想定し、量子セキュアクラウドから急性期における患者情報を数秒以内に復元する実験にも成功したほか、静止衛星を用いてのデータ復元実験にも成功しています。また、近年ゲノムデータを用いた創薬や治療が身近になる一方で、究極の個人情報であるゲノムデータを守る技術が追い付いていません。NICT では量子セキュアクラウド技術により、安心してゲノム情報等を医年盛んに報道されている量子コンピュータが実用化されれば、これまで解決できなかった問題をたちどころに解くことが可能とされ、様々な分野での利活用が期待されています。一方で、現在インターネットで利用されている暗号技術は量子コンピュータにより、即座に解読され、通信の安全性が脅かされる危険性も孕はらんでいます。これに対し、将来量子コンピュータが実用化されても安全な通信を実現するための研究開発も盛んに行われています。その中でNICT では、将来どのような計算機が開発されても盗聴の脅威を排除できる技術“量子暗号”の研究開発を進めています。量子暗号とは、離れた2者間で“情報理論的安全”な乱数を共有する“量子鍵配送(Quantum Key Distribution: QKD)”と、共有した乱数と伝送データを1ビットごとに排他的論理和を施すVernam's one time pad 暗号を用いた秘匿通信と定義しています。NICTでは量子鍵配送ネットワークをJGNの光ファイバテストベッド等を利用し、東京圏(100 km圏)に構築しています。このネットワーク(Tokyo QKD Network)は、2010年から運営され、世界で最も運用実績のある量子鍵配送ネットワークです。NICTでは秘匿伝送のほか、このネットワーク上に“秘密分散”プロトコルを実装し、情報理論的安全なデータの分散保管の実証も進めています。これらの機能を実装した量子暗号ネットワークを“量子セキュアクラウド”と定義し、研究開発を進めています(図)。実験実証対象として、超長期に秘匿すべきデータをメ藤原 幹生(ふじわら みきお) 未来ICT研究所 小金井フロンティア研究センター 量子ICT研究室 室長/量子ICT協創センター 量子ICT デザインイニシアティブ イニシアティブ長兼務近量子ICTによる安全かつレジリエントなセキュアクラウドサービス実現に向けて療に役立てる技術の確立を目指しています。さらに量子セキュアクラウドに強力な計算エンジンを装備し、安全なデータの利用も可能とするシステムへの発展も進めています。データを利用する際に、不必要な個人情報を不開示とし、治療に必要なデータのみ医療関係者に示すことが可能になります。この機能を用いることにより、医療分野での応用のみならず、我が国の経済成長の源泉である工業や金融などの企業機密情報からの“新な知の創造”を容易とし、海外クラウドサービス利用時に懸念される国外への情報漏洩から解放された、新たな時代のデータ利活用基盤になることが期待されます。NICTでは、量子ICT研究室が有する量子技術と他研究室・センターが有する先端技術を融合させ、NICT でしか実現できない技術開発を進めています。さらに、量子技術を原動力として医療や産業技術の効率的発展を加速し、持続可能な開発への貢献を目指します。図 量子セキュアクラウドの概念NICT NEWS 2022 No.312
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