特別対談なかでNICTが貢献できる部分も大きいと思います。NICTは、メインである次世代のICTの研究開発、日本標準時や宇宙天気予報などの公的サービスの提供、大学や民間企業へ研究開発資金を提供するファンディング・エージェンシーとしての機能と、大きく3つの役割を担っています。最初に研究開発です。まさにSDGsの項目にも「産業と技術革新の基盤をつくろう」というものがありますが、ICTは今や産業や生活を支える社会インフラとして不可欠なだけでなく、2030年に向けてのあらゆるテーマに関わってくるものです。公的サービスに関わる部分では、先日のトンガの海底火山の爆発の報道で、気象衛星「ひまわり」の画像が多く取り上げられましたが、「ひまわり」の全データをリアルタイムに取得し、可視化し、高速ネットワークにより国内及び海外に提供しているのは、実はNICTです*。こうした方面での情報発信や宇宙開発利用に関わる貢献も行っています。ファンディング・エージェンシーとしては、Beyond 5Gのような次世代ICTの研究促進事業だけでなく、ICTを使って社会課題や地域の課題を解決するプロジェクトにも支援しています。たとえばASEAN地域と日本におけるICT研究開発機関・大学のグローバルなバーチャル組織「ASEAN IVO」は、NICTが提案し設立したものですが、これを通じて、東南アジアにおける森林火災のモニタリング・プロジェクトなども複数の参加組織の協力によって実施されています。このように、NICTには多面的な役割があって、それぞれで、SDGsに貢献できるのではと思っています。* ひまわりリアルタイムWeb https://himawari8.nict.go.jp/省エネルギーで期待される量子ICT蟹江 地球環境やエネルギーをテーマにしている立場からすると、現在のICTの中の主要研究テーマになっている量子コンピューティングは非常に興味があります。今、ICTが世の中で重要な役割を負っていますが、一方で、それに必要な電力がものすごい量になるという懸念があります。これに対して、量子コンピューティングは大幅にエネルギー量を削減できるということで、今後の方向性を考えるうえでも気になっています。徳田 エネルギー消費に関しては、私たちも非常に懸念しています。「Green by ICT」、つまりICTを使って産業のグリーン化を促進したり、環境モニタリングや解析という面では大きく貢献できるのですが、一方で、ICT自体によるエネルギー消費が大きくて「Green of ICT」は実現できない、というのでは仕方ありません。AI化が加速し、ビッグデータの解析・活用なども一般化したことで、大規模なデータセンターを稼働させることになる。実際にNICTもけいはんな地区に多言語音声翻訳技術の研究開発用データセンターを持っていますが、どんどん効率的なサーバーへの置き換えを進めていても、なお膨大な電力消費量であることは否定できません。これに関しては、蟹江先生も挙げておられた量子コンピューティングや量子コミュニケーション、あるいは、ニューロモーフィックチップの利用など新しいパラダイムへのシフトを是非とも進めていかなければなりません。まさにこれらは各国の研究者がしのぎを削っているところですが、技術自体のグリーン化を目指さないといけない。でなければ、一方では貢献していますが、一方では背反している、ICTはけしからんという話になりかねません。ちなみにNICTの未来ICT研究所では、昆虫の脳の機能解析をしているチームがいて、将来的にAI処理に特化したニューロモーフィックチップ開発に貢献できると思います。またオール光によるネットワークやコンピューティング技術の開発により、大幅な省エネルギーが可能になることが期待されます。公平性・働きがいにもICTは寄与できる――環境やエネルギー問題だけでなく、SDGsにおいては人々の生活の中での公平性や働きがいも大きなテーマになっていますね。徳田 NICTでは今、働き方改革を積極的に進めています。新年のNICT職員向けの年頭談話の中でも触れたのですが、「働き方改革の本質は、機構内の一人ひとりが個人の成長とチャンスを拡大して、個人のクリエイティビティを発揮でき、新しい生きがいを生み出せること」だと思っています。そうなってこそ、NICT NEWS 2022 No.32
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