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5NICT NEWS 2022 No.3らの高エネルギー粒子やコロナガスによる電子回路信号のエラー発生や、衛星帯放電による過電流が衛星運用に深刻な影響を及ぼすことが知られています。近年、多数の低軌道衛星を用いて世界のいたるところでインターネットサービスを行う事業が展開されつつありますが、低軌道小型衛星では大気の変動による衛星の軌道への影響が懸念されています。特に大規模な太陽嵐が磁気嵐を誘発し、極域で電流が流れ大気が膨張し、低軌道衛星の大気摩擦が増大する現象が知られており、2022年2月にはこの現象が原因と思われる衛星事故が報告されました。電離圏は地表に近く、太陽活動に加えて気象・気候の変化にも影響を受けていることが知られています。いま、地球温暖化に代表される気候変動が世界的な課題として様々な局面で検討されています。これまでの研究で、高度約10 km以下の対流圏で地球温暖化が進むと、本来宇宙空間に放出されるはずの熱が高層大気に届かないために上空の大気が冷やされ、電離圏などの高度が下がってくるという研究結果が示されています。この現象は極きょく渦うずと呼ばれる空気の流れで他の地域と隔絶する北極・南極地方で特に顕著に表れることが知られています。NICTでは、1957-1958年の国際地球観測年に開始された第1次南極観測隊から継続して南極昭和基地で電離圏観測を行っており、これらのデータを用いた解析においても、電離圏高度が長期にわたって下がる傾向が見られています。現在この現象と気候変動との関連について調査を進めています。このような活動は、各国との協力が不可欠です。NICTは宇宙天気予報の分野では60年以上の長きにわたり観測データや予報情報の共有などで国際協力を進めてきました。宇宙天気予報により高精度な衛星測位や衛星運用等における事故を未然に防ぐことで、NICTは新たな産業創出へのサポートやサステナブルな社会構築、さらに気候変動対策へ、世界中のパートナーと共に貢献していきます。磁波伝搬研究センター宇宙環境研究室では、宇宙天気に関する予報・警報の配信を行っています。宇宙天気予報とは、主に太陽活動によって生じる地球近傍の宇宙空間変動を監視・予報することです。大規模な宇宙天気の変動は私たちの社会基盤に重大な影響を与えることが知られています。2018年より本格的な商業利用が開始された準天頂衛星を利用した高精度測位技術は、土木・建築・農業・自動車の自動運転等への利用が進められつつあります(図)。これらは、我が国のような少子高齢化の社会にあっても、十分な社会インフラの整備や食料供給、交通事故対策などに寄与することが期待されるとともに、ポストコロナ社会では無人の物流としてドローンの高度利用も期待されます。一方で、宇宙天気の対象のひとつで、地上に近い電離圏の乱れによって、衛星測位精度が大きく劣化することが知られています。衛星からの1周波の電波を受信する方式の場合には、電離圏の電子密度が通常より大きくなる正相電離圏嵐によって最大70 m程度の誤差が生じると言われています。複数の周波数を受信するシステムにおいては電離圏電子密度の増加は誤差の要因とはなりませんが、例えばプラズマバブルと呼ばれる電離圏内の「泡」が発生すると、その境界面や内部が非常に複雑な構造をしていて衛星信号が散乱し、受信機で十分な受信ができなくなる現象が起こります。宇宙天気は衛星運用でも重要な要素となっています。静止軌道においては太陽か電石井 守(いしい まもる)電磁波研究所 電磁波伝搬研究センター研究センター長サステナブルな社会構築のための宇宙天気予報図 高精度測位での宇宙天気の影響

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