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スマートメータシステムを活用した放射線量監視の
実証に成功

~ SUN標準化ドラフト準拠の無線方式を適用。省電力動作による長期間監視も視野に ~

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2011年8月25日

独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」、理事長:宮原 秀夫)は、線量計スマートメータの無線機と接続し、継続的に常時、放射線量を測定し、その測定値の時間的な変化を収集・表示することに世界で初めて成功しました。また、本実験により、放射線量の高い地域における、人の立入りを抑えた放射線量監視の一形態を実証しました。

スマートユーティリティネットワーク(以下「SUN」)の標準化ドラフトに準拠した当該無線機は、電源投入時に、所望サービスエリアに応じて、マルチホップ通信によるメータ間のデータ収集・配信経路を自動的に構築します。また、災害時で給電できない場合にも対応し、駆動が可能なように、アクティブ期間・非アクティブ期間を有効に利用した省電力化を実現する通信方式を具備しており、想定する放射線量監視に際し、極めて効果的な動作が可能と考えられます。

背景
SUN無線機を接続した線量計
SUN無線機を接続した線量計

大規模震災による原子力発電所の事故等に起因する周辺地域の放射能汚染が深刻視されています。このような状況下では、人の立入りを極力抑えながら、汚染の鎮静化を想定した放射線量の長期の監視が必要です。一方で、災害時や緊急時には、電気・ガス・水道等のライフライン供給会社が有線接続や電気等を使用できない場合があります。

今般、高度化されたスマートメータを適用することにより、無線を介した自動検針、状況監視、メータ制御等の作業を行うSUNのシステム概念は、マルチホップ通信によるエリア拡張や省電力動作の点からも、社会に大変、注目をされています。

SUNの標準化ドラフト仕様は、NICTの提案を含め、国際標準規格として策定作業が進んでおり、データ収集のエリア確保、省電力動作のための技術要素を効果的に含み、放射線量監視に対する有効性が予想されてきましたが、線量計とSUN無線機との接続並びに実証を行った例はこれまでありませんでした。

今回の成果

今回、NICTが開発したSUN無線機に、線量計(日立アロカメディカル株式会社製)を接続し、定期的に読み出された測定値データを、IEEE 802委員会によるSUN標準化ドラフトに準拠したデータフレームフォーマットにより、伝送することに成功しました。実証試験では、マルチホップ(2ホップ)によるSUN無線伝送エリアの拡張性を確認したほか、1%以下のアクティブ期間を適用した省電力動作の実証も行いました。

この実証試験により、SUN無線機を用いて、常時、放射線量を測定し、時間的な変化を収集・表示することに世界で初めて成功しました。また同時に、放射線量の高い地域において人が立ち入らず放射線量を監視する手段の一形態を実証しました。

今後の展望

IEEE 802委員会のSUN標準化と、国内の無線局設備規則整備の完了を本年度中に見込みながら、本実証試験の成果を用いて、SUNシステムの早期導入を促進し、ICTを利用した安全安心社会の実現を目指します。

 
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補足資料

想定システムの概要

●<図1>に、放射線量監視のイメージを示します。
線量計は、屋外の開放地を監視するもの、屋内の特定エリアを監視するもの等、様々な形態が考えられますが、いずれもSUN無線機に接続され、無線機同士のマルチホップ通信を経て、SUNサービスエリア内で集約されます。収集されたデータは、広域系通信によってさらに中継され、別地域の分析・対策本部等に伝達される場合もあります。
 

図1: 放射線量監視のイメージ
図1: 放射線量監視のイメージ
スマートメータ用無線機の活用について

1. 無線機及び線量計の設定

本実証試験において、無線機は、IEEE802委員会によるSUN標準化ドラフトに準拠するものを用いました。
 
●<図2>に、適用したデータフレームフォーマットを、<表1>に、無線機の諸元をそれぞれ示します。
データフレームフォーマットのうち、上位層情報であるMAC層ペイロードのうち10オクテットのフィールドに、1分ごとに線量計から読み取られた測定値が収納されます。アクティブ期間の比率は約0.8%です。

<図2: データフレームフォーマット>
<図2: データフレームフォーマット>

<表1: 無線機諸元>
 
サイズ  : 20cm×17cm×7.5cm
 周波数帯  : 953.0 MHz (メガヘルツ)
 送信電力  : 10 mW (ミリワット)
 変調方式  : 2GFSK
 伝送速度  : 100 kbps
 物理層ペイロード長  : 28オクテット
 ビーコン間隔  : 9.83秒
 アクティブ期間長  : 76.8ミリ秒
 アクセス制御方式  : アクティブ期間における競合型アクセス
 検針間隔  : 1分

●<図3>にSUN無線機を接続した線量計の外観を、<表2>に線量計の諸元をそれぞれ示します。

図3: SUN無線機を接続した線量計
図3: SUN無線機を接続した線量計

<表2: 線量計諸元>

サイズ : 28cm×30cm×5.5cm
測定線種 : γ(ガンマ)線
検出器 : シリコン半導体検出器
測定エネルギー範囲 : 50 keV(キロ電子ボルト)~ 6 MeV(メガ電子ボルト)
測定範囲 : 0.1~999.9 μSv/h(毎時マイクロシーベルト)

2. 実証試験
●<図4>に、本実証試験におけるSUN無線機及び線量計の構成を示します。
3台のSUN無線機(線量計側端末、中継端末及び表示端末)による2ホップのマルチホップ通信を実現し、最終段の無線機では、SUN信号として受信した放射線量計測値をPC画面上に表示しました。

図4: 本実証試験時のSUN無線機及び線量計の構成
図4: 本実証試験時のSUN無線機及び線量計の構成

●<図5>に、本実証試験における放射線量計測値の表示画面を示します。
図4に示すように、線量計側端末では、1分間隔で検針された放射線量計測値を図2に示すデータフレームフォーマットに従い、逐次送信します。表示端末では、受信したデータフレームのうち、FCS (Frame Check Sequence; 誤り検出系列) により誤りと判断されたフレーム以外から読み出した放射線量計測値を、表示用PCにおいて時間軸上にプロットします。本実証試験の結果、放射線量計測値が適切にSUNシステムを介して受信されていることが確認できました。

図5: 本実証試験における放射線量計測値の表示画面
図5: 本実証試験における放射線量計測値の表示画面

用語解説

線量計

放射性物質が放出する時間的な放射線量を測定する計器で、災害時等における放射能汚染の深刻さの指標を与えます。測定環境、測定精度及び想定最大線量に応じて多様化しています。

スマートメータ

通信機能、電子式表示等の高度化を行ったメータです。通信機能によって、自動検針、状況監視及び動作制御を可能とするほか、表示により電力等エネルギーの消費量を視覚化することで、消費者に対して、より有益な消費形態を喚起する効用もあります。

スマートユーティリティネットワーク(SUN)

ガス・電気・水道のメータに無線機を搭載し、無線通信を介して、検針データを効率的に収集する無線通信システムです。電波の劣化等を考慮したうえで、所望のサービスエリアを確保することや、システムメンテナンスの見地から、省電力動作を確立することが主な技術課題と考えられます。将来的には、検針データの収集にとどまらず、収集データに基づいた、エネルギーの制御・管理技術等にも有効利用されることが予想されます。SUNの国際的な標準化活動が、米国の電気・電子技術の学会であるIEEE (The Institute of Electrical and Electronics Engineers) 内でLAN等の規格策定を行うIEEE 802委員会によって推進されています。
IEEE 802委員会ホームページ:http://www.ieee802.org/

マルチホップ通信

無線機間の一対一の直接通信に対して、第三の無線機によって通信が1回以上中継される通信形態を指します。通信の伝達距離は、中継数に比例して増大します。逆に、直接通信の場合と同等の通信距離を、より低い送信電力で実現することも可能です。また、無線電波に対する障害物を回り込むような中継経路の設定によって、電波の不感地帯を解消することもできます。

アクティブ期間・非アクティブ期間

通信に際して、無線機間で時間的な同期を確立し、比較的短い割合の共通期間のみ通信若しくは待機状態とし(アクティブ期間)、それ以外の期間を原則としてスリープ状態とする(非アクティブ期間)ことで、全体として消費電力量を低減することができます。



本件に関する 問い合わせ先

ワイヤレスネットワーク研究所 
スマートワイヤレス研究室

原田 博司、児島 史秀
Tel: 046-847-5084
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取材依頼及び広報 問い合わせ

広報部 報道担当

廣田 幸子
Tel: 042-327-6923
Fax: 042-327-7587
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