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UWBを利用した高精度の屋内測位システムを開発

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2014年5月26日
ポイント

    • UWB技術を利用して、リアルタイムで数10cm程度の高精度の屋内測位システムを開発
    • UWBの測定距離を従来の3倍以上に増大させることで実用的なシステム開発が可能に
    • ショッピングでの顧客サービス向上や物流倉庫での作業効率化、視覚障がい者の歩行支援などに活用が期待

独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」、理事長: 坂内 正夫)は、UWBを活用した高精度の屋内測位システムを開発しました。リアルタイムで数10cm程度の高精度で位置測定ができ、スマートフォンやタブレットなどの携帯端末と組み合わせて用いることで、利用者の位置情報に連動した多様なサービスの実現が可能です。
今回開発した高精度の屋内測位システムをショッピングモールや物流倉庫に設置し、顧客位置に連動したショッピング情報等の提供や会計まで行かなくともクレジット決済できるサービスの実証実験や、作業員やフォークリフト等の動線把握による作業効率と安全性向上のための実証実験を行っています。また、本システムは、音声による読上げと音声入力ができるため、視覚障がい者の歩行支援などへの活用が期待されます。

背景

UWBを用いた屋内測位システムは、ナノ(10-9)秒オーダーの非常に短いパルスの電波を用いることで、Wi-Fi(数m程度の精度)やIMES(10m程度の精度)等の屋内測位システムより一桁以上高い数10cm程度の精度で位置測定することができます。しかしながら、UWBの利用には、測定距離が短いため、測距のための固定機を多数設置しなければならないといった課題があり、コスト等の面から実用化の支障となっていました。

今回の成果
UWBを用いた屋内測位システム
UWBを用いた屋内測位システム

今回開発したUWB(7.25-10.25 GHz)を利用した高精度の屋内測位システムは、UWBの測定距離を増大させる技術を取り入れることによって、NICTが平成24年に開発した「視覚障がい者歩行支援システム」の測定距離を3倍以上上回る30mに増大させることで、測距のために必要な固定機の数を減少させることが可能となりました。また、利用者が携帯しやすいようUWB移動機として、スマートフォンに連結した形状の端末や作業ポケットに入れられる小型端末などを開発しました。
さらに、この屋内測位システムは、エリア内の移動機の位置情報をリアルタイムで測位できるだけでなく、視覚障がい者が歩行する上で主な障害となる段差、階段の有無や道幅などの状況を考慮したルートを算出できるため、目的地までの距離と方向を音声読上げと音声入力によりナビゲーションする、視覚障がい者の歩行支援などへの活用も期待されます。
今回開発した屋内測位システムを利用して、以下の実証実験を実施しています。
 
 (1) ショッピングモールでの顧客サービスの向上
  ・顧客位置に連動したショッピング情報の提供スマートオーダー等に対応
  ・店員の移動端末により店内どこでもクレジット決済できるサービス
 (2) 物流倉庫での作業効率と安全性の向上
  ・作業員及びフォークリフトの動線の可視化
 
なお、本実証実験は、ノースポート・モールセイノー情報サービスの船橋物流センターのご協力を得て行われています。

今後の展望

今回のショッピングモールや物流倉庫での実証実験を通して、事業者や一般ユーザからの意見を取り入れ、更に利便性や機能を向上させていくとともに、UWB測位の精度向上に努め、UWBを利用した屋内測定システムの早期の実用化に向けた研究開発を進めていきます。
なお、5月28日(水)から30日(金)に東京ビッグサイトで開催される「ワイヤレス・テクノロジー・パーク2014」で、本システムについてデモ展示を行います。会場では、実際に携帯端末を持っていただき、画面上で現在位置の標記及び目的地(エリア内の展示ブース)までのナビゲーションを体験していただけます。また、今回のUWB測位システムの概要をわかりやすくまとめた動画をNICTのビデオライブラリに掲載しております。



補足資料

1. UWBを用いた屋内測位システム
図1 UWBを用いた屋内測位システム
図1 UWBを用いた屋内測位システム

UWB移動機を取り付けた画面イメージ
UWB移動機を取り付けた画面イメージ

UWB移動機
UWB移動機

図1にUWBを用いた屋内測位システムの概要を示します。UWBの信号パルス長は1ナノ秒程度であり、この信号パルスの伝播時間から固定機と移動機との距離を30cm以内の精度で測定することができます。固定機の位置を事前に登録することで、移動機と3台の固定機との距離から3点測位によって移動機の位置を算出することができます。

2.実証実験システムの概要
図2  UWBを活用した屋内測位システムとその実証テストベッドの構成
図2 UWBを活用した屋内測位システムとその実証テストベッドの構成

図2にUWBを活用した屋内測位システムとその実証テストベッドの構成を示します。UWB測位システムは固定機、PoEサーバー、制御PC及び移動機などで構成されます。移動機は、固定機との間でUWB信号の伝播時間を測定し、距離を求めます。3台以上の固定機との距離データから制御PCによって移動機の位置が計算されます。

(1)ショッピングモールでの実証実験

ショッピングモール・テストベッドでは、移動機とMiniUSBケーブルで連結されたスマートフォンやタブレットなどの携帯端末のソフトウェアによって、①移動機の所在位置はリアルタイムで画面上に表示するとともに、視覚障がい者が歩行する上での主な障害となる段差、階段の有無や道幅などの状況を考慮したルートを算出し、目的地までの距離と方向を、音声入力と音声読上げでナビゲートする視覚障がい者歩行支援システムと、②移動機の位置情報に基づいて、顧客位置に連動した情報提供やスマートオーダー、位置連動決済といったショッピングモールでの顧客サービス向上と販売促進に活用できるシステムを構築し、実証実験を行っています。

ショッピングモールでの実証実験の写真
ショッピングモールでの実証実験の写真

(2)物流倉庫での実証実験
物流倉庫テストベッドでは、作業員の作業着ポケットの中に移動機(タグ)を入れて、あるいは作業用フォークリフト上に移動機(タグ)を固定させることにより、作業員やフォークリフトの動線を可視化するシステムを構築しました。収集した動線データを解析することによって、作業の効率化や安全性の向上に役立てることが期待されます。

 

倉庫での実証実験の写真
倉庫での実証実験の写真



用語解説

UWB(Ultra Wide Band)

インパルス方式のUWB技術は、高い精度で距離測定を行えることが知られており、精確な時間情報を提供するナノ秒オーダーの非常に短いパルスを用いてパルスを計測することによって、誤差が30cm以下の距離測定が可能である。測定回数を増やすなどの処理を施すことによって、測距精度を更に高めることができる。

Wi-Fi測位

無線LANの複数のアクセスポイントからの距離を電波強度又は伝搬時間から測定し、端末の位置を推定する技術。測位精度は数m程度

IMES測位

IMESはIndoor Messaging Systemの略称で、GPS衛星を補完する屋内に設置された送信機からの位置情報を検知して、端末の位置を推定する技術。測位精度は10m程度

UWBの測定距離を増大させる技術

1台の固定機の中に内蔵された通信モジュール(アンテナを含む)をこれまでの1から4に増やし、時間を少しずつずらして連続して送信することにした。個々のモジュールの送信電力密度を規定値に抑えつつ、時間軸上の合成電力を大きく得るために、個々のモジュール間の送信間隔を繰り返し調整・評価を行い、合成電力を大きくすることに成功した。さらに、この増強した電力を検出できる技術を開発した。

位置連動お知らせ

UWB測位システムにより割り出されたユーザが所持している移動機の所在位置の情報を基に、店舗側より、その場所付近に置かれている商品の説明や店舗のクーポン、おすすめ商品等をユーザが持っているスマートフォン等の携帯電子機器に送信する。事前にソフトウェアをインストールする必要がある。

スマートオーダー

ショッピングモール等に置かれている電子広告端末(サイネージ)の前に、事前に登録されている移動機が通ると、所持者の属性(性別・年齢等)が店舗内のサーバーに伝わり、電子広告端末が所持者の属性に合わせたおすすめ商品を提示する。所持者は、自分が所持しているスマートフォン等の携帯電子機器におすすめ商品を読み込んで、商品を注文することができる。事前にソフトウェアをインストールする必要がある。

スマートオーダーのイメージ
スマートオーダーのイメージ
位置連動クレジット決済

ユーザがスマートフォン等の携帯電子機器で注文した商品を店員が所持する決済用電子端末にタッチすると、決済用電子端末に注文した商品情報が渡され、決済用端末につながっているクレジットカード読取り器でクレジット決済される。決済用電子端末は店員が所持し移動可能なため、その場でクレジット決済が簡便にできる一方、決済時刻と決済場所が厳格に管理することが求められており、UWB測位システムを用いることで、クレジット決済の場所を店内に限定し、セキュリティーの向上を図ることができる。

位置連動クレジット決済のイメージ
位置連動クレジット決済のイメージ
ノースポート・モール

所在地: 神奈川県横浜市都筑区中川中央一丁目25番1号
横浜市営地下鉄「センター北」駅からYOTSUBAKOを通り徒歩1分

セイノー情報サービス 船橋物流センター

PoE

Power over Ethernetの略で、イーサネットケーブルによって電源供給する規格



本件に関する問い合わせ先

ワイヤレスネットワーク研究所
ディペンダブルワイヤレス研究室

李 還幇、三浦 龍
Tel: 046-847-5432
E-mail:
E-mail:

広報

広報部 報道担当

廣田 幸子
Tel:042-327-6923
Fax:042-327-7587
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