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多地点遠隔高画質TV会議システムの開発

勝本 道哲 (かつもと みちあき) - 情報通信部門 インターネットアプリケーショングループ グループリーダー

1996年、通信総合研究所(現NICT)に入所。次世代プラットフォーム実現に向け、インターネットプロトコルの高度化、 次世代アプリケーションに関する研究に従事。博士(工学)


はじめに

最近は、ADSLや光ファイバ接続による高速なインターネット環境が一般家庭にも普及し、大容量のデータ配信による映画等の コンテンツ提供サービスやテレビ電話サービス等が始まっています。そしてインターネット基礎技術のさらなる発達や ネットワーク高速化に伴い、ますます高品質化が進み、需要の増加が期待されています。しかし、実際に良いサービスを提供 するためには、インターネットの技術だけではなく、様々な関連技術を効果的に取り入れていく必要があります。例えば、 テレビ会議システムにおいては、単なる映像や音声の品質劣化防止策にとどまらず、より高画質な映像をインターネット上で 取り扱うための映像技術や音響技術をインターネットの基礎技術と結びつけなければなりません。また、1対1のテレビ会議では 実現可能でも、多地点を結んだ会話や会議を行うためには、より多くの複雑な技術を取り入れなければなりません。そこで、 インターネットアプリケーショングループでは、これまでに研究開発した技術を用いて、インターネットをより有効に活用する ための付加価値技術の研究に取り組んできました。今回は民生応用への一例という視点で、多地点遠隔高画質TV会議システム 開発概要について紹介します。

システム実現に向けての取り組み

インターネットを用いた遠隔TV会議システムにおいては、その画質や音質の向上化を図るためには膨大な伝送容量が必要となります。 その解決策として、インターネットアプリケーショングループは、これまで培ってきたデジタルビデオ(DV)およびハイビジョン (HDTV)をインターネット上で転送する技術を提案してきました。しかし、これらは1対1の伝送が基本で、多地点間を接続する 伝送には対応していませんでした。そこで、多地点を結び双方向の高画質遠隔TV会議を行うための新たな技術を開発しました。 その技術ポイントとしては、多地点それぞれから送信するサイトでの信号処理、それらの合成処理、データ伝送、受信サイトでの エンコード処理、画面合成等の技術があり、さらにそれらをインターネット技術と統合させました。また、会議場所が増えるに従い、 参加者の操作が複雑化し、且つ知識と経験が必要となるため、こうした参加者の利便性向上にも取り組みました。具体的には、 株式会社電通国際情報サービスと共同研究を行い、参加者が簡単に汎用のWebブラウザ上で操作可能なソフトウェアを開発しました。 このソフトウェアを起動させるためのプラグインソフトウェアは、利用するパソコンへ自動的にインストールされるため、 ホームページ閲覧等でインターネットを利用している人であれば誰でも会議設定が可能となります。

システムの概要と実用実験

通常使用されているシステムでは、デジタルビデオの伝送には30Mbpsの伝送速度が必要となり、地点が多くなるほどその容量は 増加します。そこで、大学・研究機関等、伝送帯域1Gbpsクラスの高速ネットワークと、一般的な汎用サーバを組み合わせて実現 することを視野に、10地点を高画質デジタルビデオで接続するシステムを開発しました。このシステムは送受信合わせて、 伝送容量630Mbpsの高速ネットワーク利用型のシステムとなります。参加者による操作は非常に簡単で、図1に示すWebブラウザ上で 会議開催設定を行います。図2に設定パネル表示例を示します。会議主催者は、参加者と画面レイアウトを画面構成パネルで設定し、 送信パターンパネルから送信したいレイアウトを選択するだけで、その構成を自由に変更することができます。また、参加者は 図3に示すように、マウスで参加したい会議を選択するだけで多地点会議への参加が可能になります。

本システムは、平成18年1月25日に開催されたAPAN(Asia-Pacific Advanced Network) Medical Working Group Workshopにおいて、 国内3箇所、海外7箇所を高速ネットワーク(APANおよびJGNII)を活用した多地点国際遠隔会議の場で実際に活用され、 その機能及び性能等の有用性を実証しました(図4)。

おわりに

本成果は、NICTがこれまで推進してきた「次世代プラットフォーム技術」の要素技術を総合した研究結果であり、国内外を問わず 多地点間を結び、高品質・低遅延が要求されるテレビ会議や遠隔教育等の分野での新たな映像活用技術としての早期実用化が 期待されており、産業界への技術移転も重要であると認識しています。そうした中、本研究開発を共に進めてきた株式会社 電通国際情報サービスでは、今回の技術開発成果をベースとして、多地点を結ぶデジタルビデオ会議システムの製品化に向けた 検討を開始しました。


Q. APANとはなんですか。
A. 1997年に設立された、アジア太平洋地域の教育や研究用ネットワークを提供する、国際共同事業体です。主に、ネットワーク技術、 ネットワーク・アプリケーション、ユーザ・コミュニケーションの3つの分野で研究を行っています。日本、韓国、中国、 マレーシア、タイ、シンガポール、オーストラリアといった国がネットワーク上で結ばれています。
Q. 実用実験で結んだ国内3箇所と、海外7箇所はどういうところだったのでしょう。
A. 国内は東京・秋葉原の学会会場、福岡・九州大学病院、岩手・岩手医科大学付属病院の3箇所、海外は韓国・ソウル大学付属 ブンダン病院、国立がんセンター、台湾・国立台湾大学、台中栄民総病院、中国・清華大学、シンガポール・国立シンガポール大学、 オーストラリア・フリンダー大学病院の7箇所です。実験となった会議は、内視鏡を始めとする光学医療をテーマにした国際医療会議 でした。

企業だけでない、私たちにも身近になるTV会議システム
テレビ会議というと、国内外に支店を多く持つ企業が社内の会議などに、大型ディスプレイとたくさんのマイク、そして会議設定 ボードを使った複雑な操作を行うといったイメージが浮かびます。しかし、インターネットと新しいソフトウェアを利用したこの システムによって、それらのイメージを払拭することができるかもしれません。さらに企業の会議以外に、遠隔教育、学術会議 などにも、その利用が考えられます。また、"DV映像とCD品質音声伝送のため、テレビ放送を上回る高画質"、"10地点から送られて くるDV映像とステレオ音声を一つに合成する機能"など10個の技術機能のスピンオフも、新しい分野での応用が期待されます。 TV会議システムは、私たちにもより身近なものとなりそうです。