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情報通信セキュリティ研究センター特集

4つのアプローチで進む情報通信セキュリティ研究 安心・安全なネットワーク社会の実現を目指す 情報通信セキュリティ研究センター センター長 篠田 陽一

情報通信セキュリティ研究センターが目指しているのは、情報通信技術による安心・安全なネットワーク社会の実現です。現在、4つのグループが未来を見すえた先進的な研究を進めています。

情報通信技術で安心・安全な社会を

―情報通信セキュリティ研究センターではどのような研究をされていますか。

篠田 「セキュリティ」というと、コンピュータウイルスやネットワークからの侵入といったイメージがありますが、私たちは「安心」とか「安全」というような広い意味でとらえています。情報通信と安心・安全技術の関係には2つの面があり、「情報通信による安心・安全技術の研究」と「情報通信のための安心・安全技術の研究」の2つの分野で研究を進めています。
 「情報通信による安心・安全技術の研究」というのは、情報通信技術を使って、国民の生命や財産を守り、安心・安全な社会を作るためのもので、「防災・減災基盤技術グループ」が研究を行っています。「情報通信のための安心・安全技術の研究」とは、通信を暗号化したり、データの改ざんを追跡するといった研究で、「インシデント対策グループ」と「トレーサブルネットワークグループ」が研究を行っています。このほか、主に基礎理論を扱っている「セキュリティ基盤グループ」が、両方にまたがった活動をしています。

センターを構成する4つの研究グループ

―防災・減災基盤技術グループでは、どのような研究をしていますか。

篠田 情報通信技術はすべてのインフラのためのインフラ、「メタインフラ」といえます。電話をかけるにも、電気を分配するにも、交通機関を運行させるにも情報通信技術が使われています。災害が発生した場合に、非常時の通信システムなどを使って他のインフラをどのように支えていくかというのが、この研究の目的です。例えば電線が切れたり電源が落ちたりすると、交換機が動かなくなり、電話が通じなくなってしまいます。そのような時にどうやって通信網を再構築するかを研究しているわけです。「必要な情報を、必要な時に、必要な人あるいは場所に」というのがキャッチフレーズです。

―セキュリティ基盤グループでは暗号の研究をしているのですか。

篠田 暗号技術によって安心・安全な通信技術を確立することを目指しています。暗号というと、数学っぽい話に聞こえますが、それだけではなく、暗号そのものに新しい暗号をかける研究や、国の電子政府をサポートする研究など、いろいろなことをしています。

―今の暗号技術は安全なのでしょうか。

篠田 今使われている暗号システムが安全かどうかを検査することも仕事の1つです。そのほか、暗号を使ったいろいろなアプリケーションをシステムとして構築した時の安全性も検証しています。もちろん、他のグループへの技術提供も行っています。
 それから、携帯電話やパソコンなどの電子機器の漏えい電磁波を解析すると、その機器が今どんな動作をしているのかがわかってしまいます。これを防止する電磁波セキュリティ技術や物理セキュリティ技術も研究しています。

情報通信セキュリティ研究センター 4つの研究グループ

安心・安全なトラクタブルネットワークの実現へ

―インシデント対策とはどのような意味なのでしょうか

篠田 インシデント対策というのは、金銭的な目的、または機密情報を盗む目的で実行されるサイバー攻撃を探知し、解析し、改善に向けた対策をとることをいいます。インシデント対策グループでは、日本の広域で発生している実際の攻撃をリアルタイムで見て直接的な対処を行ったり、攻撃がどんな風に変わるかを予測したり、その予測に基づいた対策を研究するなど、サイバー攻撃に対する総合技術の研究開発をしています。ネットワーク上で観測・検知した攻撃をリアルタイムで自動分析し、可視化しているのが、最先端インシデント分析センター(nicter)です。

―トレーサブルネットワークグループはどのような研究をしていますか。

篠田 トレーサブルネットワークグループの目的は、時空を超えて問題の追跡をすることです。ドラマなどでよく電話を逆探知するシーンがありますね。あれは、空間を超えて相手を検出するということをしているわけです。現在の電話なら一瞬で逆探知できますが、インターネットに代表されるデータネットワークでは、今ひとつうまくいかないのです。トレーサブルネットワークグループでは、まずそこを克服して空間的に逆探知できるようにしようとしています。 さらに、時間を超えて問題の発生を追跡するという研究もしています。例えばウイルスの活動が発生した時、侵入した瞬間の状態など重要な瞬間を再現できるようになれば、同じ問題が発生しないように抑制することができます。

―2つのグループともサイバー攻撃対策を研究しているわけですね。

篠田 センター内では、2つを組み合わせて「トラクタブルネットワーク」という考え方を打ち出しています。ネットワークのようにたくさんのシステムを積み上げていくと、必ず不安定になって問題が発生します。そこで、問題が起きることは許容するけれど、問題を探知し、解析し、対策を取り、さらには問題の発生にまでさかのぼって解析し、再発を許さない。そうした機能を持つネットワークを作ろうという考え方がトラクタブルネットワークです。

最先端インシデント分析センターnicter

「セキュリティ」は総合科学、だから面白い

―セキュリティ研究の特徴は、どのあたりにありますか。

篠田 セキュリティの研究はとても特殊です。ややこしいというか、面白いところなのですが、セキュリティの技術が完成すると、問題そのものがなくなってしまうという性質があります。また、セキュリティ技術そのものが他の技術、例えば情報通信に関する技術がないと成立しません。つまり、「セキュリティ」という単独の学問は存在せず、今までに研究開発されてきた他分野の知識を集めて仕立て直す、いわば総合科学なのです。暗号であれば数学ですし、データベース間の演算というような話であればデータベース技術や通信技術です。防災・減災の研究では、パニック時に人間がどの位の情報量を受け取ることができるかという問題を扱いますが、これは人間行動学や心理学、社会行動学の分野です。他にもハイパフォーマンスコンピューティング技術や「確率と推論」を扱うような人工知能分野の学問。このように、いろいろな研究分野を組み合わせて、総合的にセキュリティ研究を行っているのです。

―本日はありがとうございました。


篠田 陽一 篠田 陽一(しのだ よういち)
情報通信セキュリティ研究センター 研究センター長
大学院修了後、東京工業大学助手、北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科助教授を経て、同大学院大学教授として現在に至る。2006年より情報通信研究機構情報通信セキュリティ研究センター長(兼務)、2007年より内閣官房情報セキュリティセンター補佐官(兼務)。博士(工学)。



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