放送用周波数有効利用に関する研究開発
―TV放送のディジタル化の研究動向と課題―
都竹 愛一郎
1 はじめに
昭和28年に我が国で初めてTV放送が開始されてすでに40年以上経ち、社会生活において非常に重要なメディアとなっている。TV放送用の周波数は、VHFが12チャンネル、UHFが50チャンネルの合わせて62チャンネルが割当てられているが、14,472局(1993年12月末現在)もある放送局がこの周波数を重複して使っており、ひっ迫した状況にある。このような中で、当所では、放送にディジタル技術を導入することによって、拡大する周波数需要に応えるための研究開発を行なっている。
2.ディジタル放送の特徴と研究動向
放送のディジタル化には、次のような特徴がある。
① 雑音に強い。この事は、送信電力を低く押さえることができる事を意味している。例えば、現在東京タワーから放送しているアナログの放送波の送信電力は50kWであるが、16QAMというディジタル変調を用いた場合は、50分の1の1kW程度でよいことになる。
② 干渉に強い。この事は、同じ周波数を使う放送局の距離を近付けることができ、周波数の有効利用を図ることができる。
③ 多番組化できる。ディジタル信号の圧縮技術により、一つの番組当たりの情報量を減らすことができるため、今まで6MHzの帯域で一つの番組を送っていたアナログ方式に比べ、ディジタルにすることにより2つから4つの番組を送ることができるようになる。
④ コンピュータと相性がよい。同じディジタルデータを扱うコンピュータとデータの交換ができ、画像、音、データを扱うマルチメディア端末となる事が可能である。
このように多くの特徴を持つディジタル放送に関する研究は欧米が先行している。1992年12月に開催されたITU-R(旧CCIR:国際無線通信諮問委員会)のSG11(TV放送)において、地上系ディジタルTV放送について研究するグループ(TG11/3)が新設された。ITU-Rではまず1998年をめどに各国の研究成果をまとめる予定である。表1に、ITU-Rに提案されている方式の概要を示す。米国では地上系でディジタルTV放送(ATV)を実現するための研究開発を数年前から行なっており、まもなく方式をまとめたグランドアライアンス(Grand Alliance:米国のHDTV方式を統一するための組織)報告が出る予定である。また、ヨーロッパでは移動体を対象としたディジタル音声放送の研究開発を活発に行なっており、ITU-Rに欧州方式を提案しているほか、同様な手法でTVの地上ディジタル放送に関する研究開発も実施している。さらに、EP-DVB(European Project Digital Video Broadcasting:ディジタル放送に関するヨーロッパプロジェクト)が、1994年中に規格案を作成の予定である。欧米におけるこのような研究開発の動きは、国際的にも放送におけるディジタル技術の活用を図り、周波数の有効利用を図るとともに放送の高度化を進めることが社会的に要請されていることを物語っている。我が国も放送技術の向上を図り、国際標準化機関等への寄与を通じて国際的に貢献するために、欧米に遅れることなく新しい放送技術に関する研究開発を進める必要がある。
▼表1 方式の比較
方式名 国・組織 符号化方式 変調方式
ATV 米・FCC MPEG 8-16 VSB
SPECTRE 英・NTL
HD-DIVINE 北欧
DIAMOND 仏・トムソン MPEG OFDM
STERNE 仏・CCETT
dTTb EC
― カナダ MPEG OFDM
3.研究課題
ディジタルTV放送実現のための研究項目を以下に示す。TG11/3でも同様の分類をして検討がなされている。
画像および音声の符号化
多重化および誤り訂正
変調方式
置局および中継
システム評価および導入の戦略
上記の研究テーマは極めて広範囲にわたるため、人的・予算的な資源の有効活用の観点から、当所では上に示したテーマの中で的を絞って実施する。図1に、当所が重点的に進めていこうとしているテーマを示す。通信の研究で培ってきた変復調の技術や、郵政省の研究所としての放送局置局の技術を生かして、今後の研究を進める予定である。
▲図1 地上ディジタルTV放送の研究課題
4.ディジタル放送のキーワード
上記の課題の中で、符号化方式のMPEG(Moving Picture Experts Group)と変調方式のOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplex:直交周波数分割多重変調方式)が話題の技術であり、ここで簡単に紹介しておく。
① MPEG
地上ディジタルTV放送に用いる符号化方式は、日本を含むほとんどの国でMPEG2の採用を予定している。MPEG2の規格は、現在ISO/IEC(国際標準化機構/国際電気標準会議)により標準化が進められている。MPEG2は、MC(Motion Compensation:動き補償)、DCT(Discrete Cosine Transform:離散コサイン変換)およびVLC(Variable Length Coding:可変長符号化)により構成されている。MPEG2を用いることにより、通常の解像度のTV放送(約200Mbps)を4~15Mbpsに圧縮することができる。なお、MPEG2よりも低ビットレートの方式であるMPEG1規格(1.5Mbps)の符号化装置は、CDカラオケとして製品化されている。
② OFDM
地上ディジタルTV放送の変調方式として欧米で検討されている方式は、表1に示したようにVSB(Vestigial Side Band:残留側波帯変調方式、アナログのTV放送で使われている方式)を用いるアメリカ方式と、OFDMを用いるヨーロッパ方式に大別される。
OFDMは、多数の搬送波を用いるディジタル変調方式(マルチキャリア方式)である。各搬送波は、シンボル長の逆数の周波数間隔で配置されているため、干渉が起こらないようになっている(直交している)。また各搬送波のビットレートは低いため、マルチパス妨害に強いという特徴がある。このように、OFDMは優れた特徴を持っているため、日本の地上ディジタルTV放送の変調方式として用いる方向で検討が進められている。
当所でも、OFDM変復調実験装置を製作し、室内実験を行なっている。(図2)
▲図2 試作したOFDM変調器
5.まとめ
周波数有効利用のために検討されている放送のディジタル化について、その研究動向と研究課題について述べた。放送行政に関わる郵政省の研究所として、ディジタル放送実現のために当所に課されているテーマは多く、外部機関や大学との共同研究を積極的に進めていき、日本のディジタル放送方式として最良のものを作って行きたいと考えている。
「海洋油汚染」衛星から電波による監視が有効
―衛星搭載合成開口レーダによる海洋油汚染観測実験―
岡本 謙一
1.はじめに
海洋油汚染は重要な地球環境問題の一つである。1989年3月24日、米国アラスカ州南岸のプリンス・ウイリアム湾で起きた米国史上最大の原油流出事故では、巨大タンカー「エクソン・バルディーズ号」が座礁して約3万3千トンもの原油が流出し莫大な被害をもたらした。我が国周辺海域においても、平成4年度中に海上保安庁が確認した海洋汚染の発生件数は846件で、そのうち過半数の473件が油による汚染である(平成5年度、海上保安白書)。地球的規模の海洋油汚染の観測は、現在主に全世界を航行しているタンカーを中心とした船舶からの目視による観測によって行われているが、今後は人工衛星からの観測が有効と考えられる。
電波センサは、昼夜・雲の有無にかかわらず観測できるので海洋の油汚染監視に有効なセンサである。特に、合成開口レーダ(SAR:Synthetic Aperture Radar)は、分解能の良い地球表面のマイクロ波映像が取得できるので海洋油汚染検出に最も有効なセンサである。
宇宙機搭載のSARによる海洋油汚染観測能力を検証するため、通信総合研究所では1984年に、SIR-B(Shuttle Imaging Radar-B)実験に参加し、Lバンド(1.28GHz)、水平偏波(H)のSARによって疑似油汚染領域を観測した。1991年および1992年にはヨーロッパリモートセンシング衛星1号(ERS-1)搭載のCバンド(5.3GHz)、垂直偏波(V)のSARによっていくつかの異なった風速下で疑似油汚染域の観測を行った。また1994年の4月と10月にはSIR-C/XSAR実験に参加し、Lバンド(1.25GHz)、Cバンド(5.3GHz)及びXバンド(9.6GHz)の三周波で、特にLバンドとCバンドでは水平偏波(H)と垂直偏波(V)を組み合わせた(HH, HV, VV, VH:前が送信偏波、後が受信偏波)マルチパラメータによる観測を実施した。
本稿ではERS-1の実験公募に通信総合研究所より応募して採用されたERS-1搭載SARを用いた海洋疑似油汚染観測実験結果について報告する。
2.海洋疑似油汚染観測実験
ERS-1は1991年7月に打ち上げられたヨーロッパ宇宙機関(ESA)の衛星である。中心的なセンサとして、Cバンド(5.3GHz)のSARと海面散乱計が組合わさった能動型マイクロ波装置(AMI:Active Microwave Instrument)を搭載している。入射角は走査幅の中心で23度である。空間分解能の公称値は、レンジ方向26m、アジマス方向6~30m(ルック数によって変化する)である。SARの映像モードにおいては、取得されるデータレートが高いため、搭載のデータ記録装置には記録されず、地上局から衛星が見える範囲でのみオペレーションを行う。我が国周辺のSAR映像は宇宙開発事業団の地球観測センター(埼玉県比企郡鳩山町)及び東海大学宇宙情報センター(熊本県上益城郡益城町)で受信されている。
1991年の3日周期軌道に於いては11月10日及び11月13日に静岡県御前崎沖約100km(33°45′N,138°05′E)を中心とする海域で、実験を実施した。1992年の35日周期軌道においては10月29日に潮岬沖東南約100km(32°30′N,136°10′E)を中心とする海域及び11月1日に室戸岬沖東南約100km(32°30′N,134°45′E)を中心とする海域で疑似油汚染域を作り実験を実施した。
疑似油汚染域は、海上保安庁の許可を得て、小型船舶から油に良く似た性質を有する無公害のオレイルアルコールを散布することによって作る。オレイルアルコールは、常温では液体で水に溶け難く、比重0.85と軽いので海に散布された場合は、海面上に薄い膜となって広がり、速やかに分解される。実験では、風向と直交して小型船舶を航行させ、船の舷側からオレイルアルコールを散布し、ほぼ矩形の疑似油汚染領域が作られる。1991年および1992年の実験ではそれぞれ180リットルおよび360リットルのオレイルアルコールを散布した。散布はERS-1が実験海域を通過する約30分前に行った。シートルースデータはオレイルアルコールを散布した小型船舶で取得した。1991年の実験においては、参加した気象庁の観測船、啓風丸がシートルースデータを取得した。4回の実験のうち、風速が13.7m/sと一番強かった1991年11月13日以外はSAR映像上に明瞭に疑似油汚染域を観測することが出来た。実験期間中の1991年11月10日及び1992年11月1日にはERS-1,SARと同期して、当所の航空機搭載のXバンド実開口映像レーダ(SLAR:Side-Looking Airborne Radar)が飛行し、海洋疑似油汚染海域のレーダ映像を取得した。SLARは海洋疑似油汚染観測に有効なセンサであることが実証されており、同時観測によりSARの観測した疑似油汚染領域がまちがいないことを確認すると共に、周波数の違いによる映像の、SARと実開口レーダ映像の差を検証する目的で同期実験を行ったが、今回の報告ではSLAR実験の詳細は割愛する。
3.疑似油汚染領域観測実験結果
図1は、1992年11月1日の室戸岬沖東南約100km(32°30′N,134°45′E)を中心とする海域で疑似油汚染域を作成したときのSAR映像である。映像の大きさは6km×6kmである。映像は宇宙開発事業団の処理した磁気テープより再生したものである。分解能の公称値は25m(レンジ方向)×18m(アジマス方向)である。ピクセル間隔は12.5mである。1ピクセルについて16ビットで表現された振幅値を表示している。映像のほぼ中央の長方形の暗い領域が360リットルのオレイルアルコール散布により作成した疑似油汚染域である。大きさは1.8km×0.7kmである。実験時の風速は6.6m/s、風向は276°であり、SAR映像はほぼ向かい風の条件で取得された。海洋油汚染領域では、海面の油膜が、海上風によって海面上に生ずる風波を減衰させるため、清浄海面よりも滑らかな海面となる。レーダの電波が海面に対し斜め方向より入射する場合、滑らかな油汚染海面では鏡面反射により大部分の電力が前方に散乱され、後方(レーダ方向)への散乱力は、周辺の清浄海面に較べて顕著に減少し、SAR映像上では暗い領域として映る。
▲図1 海洋疑似油汚染領域のERS-1 SAR画像(©ESA)
図2は図1の横軸方向(アジマス方向)に沿って疑似油汚染領域の中央部を通る直線上の平均後方散乱電力の変化の様子を示す。データは最初この直線を中心として縦軸方向(レンジ方向)の10ピクセル(125m)にわたって平均した。その後、アジマス方向については、同直線上の41ピクセル(500m)に対して平均値を求め、1ピクセルづつずらせながらその移動平均値を求めた。疑似油汚染領域の後方散乱電力の周辺の海面からの減衰の大きさは最大約4.0dBである。図2の横軸の0km,6kmは図1の横軸の0km,6kmにそれぞれ対応している。
▲図2 海洋疑似油汚染領域の後方散乱電力の変化の様子
4.おわりに
ERS-1 SARデータを用いた海洋疑似油汚染観測実験をとおし、衛星搭載用のSARの有効性を確認した。SIR-C/XSARの実験データの解析は今後の課題であるが、膨大なデータ解析を通し、海洋油汚染観測に有効な周波数、偏波、入射角等を決定することが期待される。最後に本実験は、宇宙開発事業団との共同研究により実施した。SARデータを提供頂いた宇宙開発事業団に深く感謝致します。海上疑似油汚染領域作成については、許可して頂いた海上保安庁の関係各位に感謝致します。また、シートルースデータ取得につきましては気象庁の関係各位に感謝致します。
「入所3年を振り返って―経過報告―」
張 兵 (関西支所 知覚機構研究室)
関西支所に入所して、いつの間にか3年間が経ちました。最初の一年目が知らず知らずのうちに過ぎてしまい、二年目に入り、漸く研究テーマをしぼってさあ研究に取り込もうと思う矢先に女性研究者の運命的なものであろうか、妊娠ということが判明し、しばらく不安な日々が続きました。その際、支所長、室長をはじめとし皆様の暖かい心使いをいただき、なんとか無事に男の子を出産し、また、順調に仕事に復帰することができました。今、子育てに追われながら研究に没頭する毎日を送っております。
この3年間を振り返っていろいろなことが頭の中に浮かびますが、その中で一番試練になったのはやはり全く新しい分野で独自な研究をすることの難しさを実感したことです。幸い、野田室長、シラジ主任研らのご指導をいただくことができ、いま現在ようやく研究が軌道に乗り始めております。大学博士課程においては、主として、統計的信号処理、制御、情報などの分野で理論的研究を行い、これらの理論の音響分野への応用を進めてまいりました。当所知覚機構研究室に入って初めて神経回路網、画像処理、音声などの研究に触れ、新しい刺激をいっぱい受けながら幅広く勉強しなければいけないと痛感しました。最初の一年間、割合プレッシャーなくじっくり勉強できたことも当所に入って一番よかったことのひとつであります。
産休を終えて仕事に復帰後、取り込んだ大きな研究テーマの一つはMRF(マルコフ確率場)のロバスト性の研究です。制御、信号処理の分野においてはロバスト性の研究が古くから盛んに行われていますが、画像分野でロバスト性の検討例があまり見当たりません。我々が画像分野でロバスト性の研究を行う大きな狙いは確率論的な画像処理方法とニューラルネットワークを結びつけることです。そうすることによりニューラルネットワークを用いた画像の超並列分散処理を実現でき、また確率統計論という方法論のもとでしっかりした理論ベースで研究を進めていくことができるのが大きなポイントです。しかし、確率統計論的な画像処理法とニューラルネットワークを結びつけるために、モデルベースの枠組みの中で大きな位置を示しているパラメータ同定問題にぶつかることになります。そこにロバスト理論を適用し、確率理論をニューラルネットワークで実現することによりパラメータの推定が不要な画像処理の並列化を実現できます。現段階の研究においては、二値MRFモデルがある条件のもとでロバストであることが判明され、それを画像の並列化処理へ適用し成果を上げています。次の段階においてはグレイレベル、さらに自然画像を対象とする研究を進めていく予定です。
3年間も関西支所に居ながら、テニスが少しも上達できていないことをとても悔やんでおります。上達するどころかラケットを握ることも一度か二度しかなかったのです。今やっとスポーツをする余裕ができて、毎日の昼食後、卓球で汗を流しています。園芸クラブにも入会し、中国野菜を大量に栽培しようと種をいっぱい中国から持ってきてもらってはいるのですが、まだ引き出しの中に寝ています。今年こそ、食堂の食卓に中国野菜を並べることを実現させたいと思います。今後ともよろしくお願いします。
▲写真1 仕事最中の張 兵さん
国際宇宙大学奮戦記
飯田 尚志
スペインのバルセロナで開催された国際宇宙大学(ISU:International Space University)の1994年夏期講座(ISU'94)にFacultyとして招聘され、約3週間滞在する機会を得たので簡単に報告する。
国際宇宙大学
ISUは、工学ばかりでなく法学,社会学等を含む学際的かつ多分野に通ずる国際人を養成することを目的として、1987年に米国に創設された非営利教育団体である。1988年より毎年夏の10週間世界各地の大学等で集中講座として開催され、毎回120名前後の学生が各国から参加してきた。学生は、修士課程修了者または3年以上の実務経験を持つ者、あるいは博士課程に在学中の者が多いようである。1992年のISU'92は北九州市で開催された。ISUでの言語は英語である。なお、夏期講座の他に、ISU常設校が1995年9月から1年間の課程としてフランスのストラスブールで開校される。
ISU'94
ISU'94は、バルセロナ市郊外のUAB大学(Universitat Autonoma de Barcelona)で6月28日から9月3日まで開催され、学生は我が国の7名を含む29か国から125名が参加した。なお、学生の男女の割合は3:1であった。
ISU'94の学科はシステム設計,ビジネス、生命科学、衛星応用など8学科である。特徴的なことはさらにDesign Projectと称して、学生は次の2つのテーマのどちらかを選び、共同で論文(400ページ程度)を仕上げることである。(1) Global Tele-Education and Tele-Science System(Tele-Tutorと呼んでいた)、(2) Solar System Exploration Program.
教官は、学科毎にChairs, Faculty, Visiting Lecturer, TA(Teaching Assistant)などで構成される。筆者は、Tele-Tutorにおいて講義と衛星通信システム設計などの指導を行った。
Design Projectの進め方に定式があるわけではなく,Tele-Tutorでは、43名の学生が参加し5つのタスクグループができた。各グループは任意にミーティングを開催しながら進めるが、週1回,CC Meeting(Coordinating Committee Meeting)と呼ぶグループ間の調整を行う打合せがChair, Facultyなどを含めて行われた。また、中間の段階で、1日かけてレビュー発表会が行われた。このDesign Projectの作業の中で学生の団結が強まり、数百名に上る同窓生の団結も非常に強いようである。
前半が終了した時点で試験が行われる。学生の評価の他に講義の評価も学生により行われる。講義の評価は、講演者の話し方が明快で連続性があったかどうか、言葉使い、発声、明瞭性が適当であったかどうか、講義時間管理がよかったか、講義資料の質,表現用具(OHP,オーディオ)の質、について5段階評価する。さらに、講義内容のアカデミックレベルを3段階評価するというものであった。
所感など
学生がよく質問するのには感心した。話の途中で黙って手を上げる。講師が気付かないと"Question"と言ったりもする。全員が聴講する大きな会場でも途中で質問が出される。この手を黙って上げて意見を述べるというのは、学生同士のミーティングでも同様であった。
ISUでは、INTERNETだけが自由に利用できる通信手段で、スケジュールの配布などにもe-mailが大いに利用された。また、日本との連絡にも便利であった。
バルセロナの暑さには閉口した。気温は35度以上あると思われ、かつ日本と同じように蒸し暑いのであるが、大学の冷房設備がほとんどなく、一番苦痛だったのは、宿舎に冷房がなく、また、網戸がないため蚊がいることであった。
バルセロナといえばガウディの建設中の聖家族教会が有名であるが、ピカソ、ミロ、ダリなどの世界的天才を輩出し、かつ、ローマ時代の遺跡もあちこちにあり歴史の重みを感じた。
今回参加してみてISUがこれ程国際的に認知され、かつ宇宙関係の国際人が育ってきていることに驚いた.当所からも誰か派遣する仕組みが考えられないものであろうか。来年はストックホルムで開催の予定である。最後に、お世話になった方々に深謝します。
山川観測所に国際共同観測拠点
―地球大気の未知領域を探る大型中波レーダー―
五十嵐 喜良
鹿児島県揖宿郡山川町にある郵政省通信総合研究所山川電波観測所に大型の中波レーダが設置され、平成6年8月26日より超高層大気の風向風速の連続観測を開始しました。この大型中波レーダは、高度約60kmから100kmの超高層大気(中層大気ともよばれる)の風向風速を約2分間隔で昼も夜も連続して観測することができる特殊なレーダ装置です。送信周波数が1.955MHzの中波帯で、送信ピーク電力が50kWのパルス方式のレーダ装置です。この大型中波レーダは、東アジア圏では初めて設置された観測装置です。アンテナは一辺が185mの三角形の頂点に、1素子の長さが77mの受信用大型クロスダイポールアンテナ3基が配置され、また、送信アンテナは高さ30mで、1素子の長さが77mのダイポールアンテナが四角形に配置されています。
地球環境は、地表から高度にそって対流圏、成層圏、超高層大気へとつながっている地球大気の組成・放射・運動の微妙なバランスの上に成り立っています。地球環境の全体像を理解するためには、各層の間の相互作用を理解する必要があります。これまで、高度60kmから100kmに位置する中層大気領域を連続的に観測する手段が少なく地球環境の中でも未知な領域とされてきました。今回、当所の山川電波観測所に設置された大型中波レーダは、地上から電波を発射し、高度60~100kmに存在するわずかな電子からはね返ってくる電波を受信することによってこれらの領域を観測できるレーダ装置ですので、地球環境と密接な関係にある我国上空の超高層大気の振る舞いを理解するのに重要な役割をはたすことが期待されています。
▲写真1 送信用のアンテナ (高さ:30m、大きさ:78m×78m)
国内では、既に9月より京都大学超高層電波研究センターと超高層大気の風の流れについて共同研究を開始し、滋賀県甲賀郡信楽町にあるMUレーダと高度80km付近の風速が非常に良い一致が見られる興味深い成果が得られています。また今後、鹿児島県肝属郡内之浦町にある文部省宇宙科学研究所のロケット発射基地から打ち上げられるロケットとの共同観測により、地球の上層大気についてレーダとの比較研究を行う予定です。
そして、カナダ、米国、オーストラリア、南極等に設置されている中波レーダの国際的な観測ネットワークに参加し、地球環境で重要な役割をはたしている超高層大気の全地球的な振る舞いについて国際共同観測を開始しました。1994年11月3日に打ち上げが予定されている米国のスペースシャトル(アトランティス)に搭載される観測装置により大気微量成分をトレーサーとした中層大気の運動や一酸化炭素や水酸基の密度の観測が計画されています。これらの観測は、地球環境の中でも特に未解明な中層大気領域を理解するのに重要な観測であり、各国の地上観測網により支援観測が行われます。山川電波観測所の大型中波レーダもこの国際共同観測に参加する計画で準備作業を行っています。この共同観測の後も、各種衛星との国際共同観測に積極的に参加する計画です。この様に、山川観測所に設置された大型中波レーダは国内外の共同研究観測拠点として活躍することが期待されています。
(宇宙科学部 電磁圏研究室)
短信
当所にタヌキの来客
オトギ話ではありません、本当の話です。当研究所には日頃沢山の方々が訪れますが、タヌキの訪問には、びっくりしています。
先日、守衛のおじさんからの通報で分かりました。生息場所は所内北側に位置する雑木林の穴の中です。見つけたのが今年8月頃とか、親ダヌキ2匹、子ダヌキ4匹です。
ところで、タヌキは夜行性ですので昼間は出歩きません。夕方と明け方になると動きが活発になります。昼間は残念ですが姿を見せません。今では守衛さんの手厚い保護により、餌づけに成功し、食堂の残り物を食べるまでになっています。願わくば昼休みにでもひょっこり現れて、私達職員をなごませてくれたらと期待しています。
▲写真1 食事をしているタヌキたち
新東京郵便局でミリ波伝搬実験
当所では、郵政研究所との共同研究で「閉空間におけるミリ波技術に関する研究調査」を平成2年度より行っている。郵政事業では、郵便物の迅速・確実な配達を目標に各種自動処理装置の開発が急務となっている。これら装置間のデータ伝送やコントロール等にはミリ波を利用することが効果的と考えられ、大規模郵便局舎内での利用をめざして研究を進めている。今回の実験は、典型的な大規模郵便局舎内でのミリ波の伝搬特性について基礎的なデータを得るもので、他に例を見ないものである。実験は10月18日~27日の間、東京都江東区にある新東京郵便局で行い、当所総合通信部高速移動通信研究室,電磁波技術部ミリ波技術研究室、郵政研究所技術開発研究センターのメンバーが参加した。今後は、今回取得したデータから大規模郵便局舎内ミリ波データ伝送技術の確立をめざす予定である。
▲写真2 新東京郵便局実験風景
新庁舎完成
「型式検定センター」
北側敷地にセンターが建設され、3月に移転して以来、早や半年が過ぎ、当地「小平市上水南町4丁目」も秋色濃くなっている。試験室が一新したことも併せ、荻窪から道路一本南側(貫井北町4丁目)の2号館に機器課(当時)が移転して以来の29年間の垢を落とすことが出来た。
センターでは、無線機器の型式検定(任意、義務)、性能試験をはじめ、測定器の較正の受け付けや試験、書類審査等の業務を日常的に行っている。主に陸上使用の機器対象の任意検定は添付されている試験結果等の書類の審査(年間約250件)を、主に海上使用の機器対象の義務検定では試験とその結果の審査を当センターで行う(年間約50件)。義務検定は対象とする機器全てが人命救助、安全の確保を使用目的とするものであるため、スタッフ一同の気の使い用は相当なものがある。技術基準も厳しく定められており、試験結果を審査し判定を下す型式検定審査会では、毎年数件の「不合格」判定を出している。GMDSS関連機器では3度目の再申請で合格に至った例もある。
検定の試験設備は、急速に新設、自動化が図られてきており、威力を発揮している。現在は、更に全試験装置のデータを一元化管理し、事務作業を効率よく進めるための統合データ管理システムの構築を目指した作業が開始されている。
▲写真1 型式検定センター
移動通信用鉄塔
陸上移動通信の需要増と将来の高度化する陸上移動通信に対処するための研究開発を当所では行なっています。移動通信用鉄塔は陸上移動通信に固有な電波伝搬上の問題点を把握するための電波伝搬実験と,開発した通信システムの実証試験の実施を主目的に建設されました。
その概要は、最上階のステージまでの地上高55m、実験用のアンテナを取り付けるステージが4段,各種実験機器を鉄塔上に収容する通信機器保管庫が3庫,実験機器をステージまであげる荷揚げ用リフト2基を備え、そのうちの1基を用いて送信アンテナ地上高を連続的に変えた伝搬実験が可能です。本鉄塔は陸上移動通信実験のみならず、放送試験用電波の送信局としても用いられます。
▲写真2 移動通信用鉄塔
外部発表
口頭発表
23rd Meeting of Society for Neuroscience(ワシントン)(1993年11月9日)
Model of Functional Interactions among Saccade-Related Neurons in Primate Superior Colliculus
……L.N. Optican,藤田 昌彦,D.P. Munoz,R.H. Wurtz
An asymmetry adaptation mechanism in the neural integrator of the oculomotor system
…………………………小川 正,笠井 健
Color filling in foveal vision
…………………………藤田 昌彦
日米宇宙協力プロジェクト・ワークショップ(ハワイ州マウイ島)(1993年11月12日)
Small Satellite Communications System for Low-Latitude Countries
……飯田 尚志,浜本 直和,有本 好德,鈴木 龍太郎
Satellite Communications R&D Activities in Japan
……飯田 尚志
Application of Car Electronic Parts to Small Satellites
……飯田 尚志,浜本 直和,中島 厚士,中川 治,錦古里 秀三
Discussion on the Definition of Small Satellite
……飯田 尚志,浜本 直和,中島 厚士,斉藤 宏文,林 友道
COSPAR Colloquium on the Low-Latitude Ionospheric Physics(台湾)(1993年11月12日)
Medium- and Large-Scale TIDS Simultaneously Observed by Satellites and the MU Radar
……小川 忠彦,大高 一弘,高見 友幸,山本 衛,山本 哲,深見 昌一郎
第8回生体・生理工学シンポジウム(東北大学・工学部)(1993年11月16日)
サッカード抑制実験における視標の影響
……青木 美奈,藤田 昌彦
平成5年度宇宙空間原子分子過程研究会(1993年11月17日)
Shoemaker-Levy 9彗星と木星の衝突で予測される上層大気層現象
……品川 裕之
第8回生体・生理工学シンポジウム(東北大学工学部青葉記念会館、仙台市青葉区)(1993年11月18日)
視標シフト法によるサッカード適応の眼位依存性について
……皆川 双葉,小川 正,藤田 昌彦
日本脳波・節電図学会学術大会(1993年11月18日)
光刺激に対する小児脳波周波数成分の応答特徴
……小池 敏英,岡本 圭子,堅田 明義,永塚 守
誘導制御シンポジウム(1993年11月19日)
静止軌道決定のための最適測距局配置
……川瀬 成一郎
衝突・破壊研究会(宇宙科学研究所)(1993年11月19日)
小惑星帯から地球への物質輸送―小惑星のニアミスと軌道の大きな変化
……吉川 真
部内発表
地球観測委員会第2回地球・太陽サイエンスチーム会(RESTEC本社)(1993年11月19日)
赤外域における太陽観測について
……富田 二三彦
電子情報通信学会ヒューマンコミュニケーション研究会(機械振興会館)(1993年11月25日)
支援作業における汎用的線画表示ツールの試作
……海老名 毅,田路 修,伊藤 昭
STE研究連絡会(通信総合研究所)(1993年11月25日)
1993年5月~1993年11月のイオノゾンデ観測にみるSTE現象報告
……五十嵐 喜良,大谷 晃,永山 幹竹,岡本 智,西牟田 一三,黑岩 博司
電子情報通信学会オフィスシステム研究会(慶応大学湘南藤沢キャンパス)(1993年11月26日)
アドレス情報取得モデルと個人向けアドレス情報システム
……岩間 美穂,久保田 文人
日本赤外線学会第31回(1993年)研究発表会(機械振興会館)(1993年11月26日)
スペース用高感度Ge:Ga遠赤外線検出器の光過度応答
……藤原 幹生,廣本 宣久,荒木 賢一,奥田 治之
言葉の科学研究会(1993年11月28日)
Perceptual discrimination of "l/r" and "w/y" by Japanese infants from six to twelve months of age: developmental changes in perceptual abilities and their implications for theories of developmental speech perception
……滝澤 修,廣松 修,白井 智,西 香苗,河野 守夫
第7回宇宙科学技術連合講演会(1993年11月29日)
低緯度地域諸国向けLEO衛星通信システムの検討
……飯田 尚志,浜本 直和,有本 好德,鈴木 龍太郎
(宇宙科学研究所)(1993年11月29日)
Seventy-five Years of HIRAYAMA Asteroid Families: The Role of Collisions in the Solar System History — Close Encounters of Asteroids
……吉川 真
GLOBCOM'93(ヒューストン)(1993年11月30日)
Optimum Frame Size for Land Mobile Satellite Communication Channels
……川又 文男
電気学会精密周波数発生回路の小型化技術専門委員会(通信総合研究所関東支所鹿島宇宙通信センター)(1993年11月30日)
AOSを用いたミリ秒パルサー観測システム
……花上 ゆう子,今江 理人,関戸 衛,木内 等,浜 真一
重力波ドップラトラッキング観測用リアルタイムDSP処理システムの開発
……中島 潤一,小山 泰弘,関戸 衛
人事異動
年月日 新 旧
6.10.1 免 宇宙通信部衛星通信研究室長事務取扱 技 内田 国昭 宇宙通信部長
〃 宇宙通信部衛星通信研究室長 技 大内 智晴 宇宙開発事業団
〃 研究官 電磁波技術部ミリ波技術研究室勤務 技 加藤 明人 電磁波技術部ミリ波技術研究室
〃 研究官 電磁波技術部電磁環境研究室勤務 技 福永 香 電磁波技術部電磁環境研究室
〃 研究官 地球環境計測部環境システム研究室勤務 技 石井 守 地球環境計測部環境システム研究室
〃 研究官 関東支所地球観測技術研究室勤務 技 髙橋 暢宏 関東支所地球観測技術研究室
〃 研究官 関東支所宇宙通信技術研究室勤務 技 李 還幇 関東支所宇宙通信技術研究室
〃 研究官 関西支所知識処理研究室勤務 技 小嶋 秀樹 関西支所知識処理研究室
〃 研究官 関西支所電磁波分光研究室勤務 技 田中 歌子 関西支所電磁波分光研究室
〃 総合通信部高速移動通信研究室勤務 技 鄭 剛
備考 元総合通信部主任研究官 大橋 一 は宇宙開発事業団へ10月1日転出した。
編集後記
さわやかな季節となりました。このところ当研究所内の樹々のあちらこちらに、黄色や、褐色の美しい模様の変化が見られるようになりました。秋が深まりながらやってきていることが良く分かります。
日本列島には秋に紅葉する樹々がおよそ百種類以上を数えると言われています。それにしても自然とは絶えず動きがあり、変化があるものです。
10月28日(金)所内4号館大会議室において、当研究所に在職されておられた方々の集いがありました。出席された百数十人の皆さんがとても懐かしそうに話に花を咲かせておられました。九十歳を越えられる方もおみえになり感激しました。
さて、朝夕の冷え込みが肌に感じられます。体調を崩しやすくなるのもこの時期です。風邪などを引かぬよう用心しましょう。
―E―
― 12 ― CRLニュース 1994.10 No.223 郵政省 通信総合研究所