うな視覚特徴[7][18]、周波数や音韻のような聴覚特徴[8]、概念や文脈に対応する意味特徴[9]–[11][19]、楽しさや悲しさのような感情特徴[20]など、多岐にわたる特徴情報の脳内マップを可視化することに成功している。我々のグループは、日常環境に近い自然な映像を視聴中の人間から機能的磁気共鳴画像法(fMRI)で計測した脳活動を基に、符号化モデルによって脳情報処理を定量化する研究に取り組んでいる。特に、自然言語処理技術の特徴空間を利用した符号化モデルを用いて、意味情報の脳内マップ(脳内意味マップ)を定量化することに成功した[21]–[23]。また、定量化した脳内意味マップが人間の意味認知を反映することも明らかにした[15]。本節ではこれらの研究成果について紹介する。3.1 単語埋め込み特徴を用いた符号化モデル自然言語処理技術はコンピュータに言語の意味を理解させることを目的とする工学の一分野であり、大規模なテキストデータから統計学的に単語や文の意味を学習する様々な手法が提案されている。そのうちの一つに単語埋め込みと呼ばれる手法があり、代表的なものとしてword2vec [24]が挙げられる。この手法により獲得される特徴空間では、一つひとつの単語の意味情報がベクトルとして表現され、単語間の意味的な類似度をベクトル間の類似度として定量化できる。その表現は人間の意味判断の特性も適切に反映しており[25][26]、脳内意味処理の符号化モデルにおいても、単語埋め込みの特徴空間(単語埋め込み特徴)がうまく機能すると考えた。図2に、単語埋め込み特徴を用いた符号化モデルの概要を示す。単語埋め込みとしてword2vecを利用し、大規模テキストデータを用いて特徴空間を事前に学習しておく。また、映像に含まれる意味内容を、人手によるシーン記述文により評価しておく。符号化モデルは、word2vec特徴空間上の表現に変換された映像のシーン記述文から、同映像により生じる脳活動を予測する線形回帰モデルとして構築される。我々のグループは、構築した符号化モデルによって、大脳皮質の広い領域の脳活動を予測することに成功した[21]。予測の精度は、単語埋め込み特徴を用いない従来研究の符号化モデル[9]と比べても高い値となり、単語埋め込み特徴は脳内意味処理を適切に捉えているといえる。また、符号化モデルを分析することで、数万の単語に対応する意味情報の脳内意味マップを図3のように可視化することに成功した(図中では解釈上の都合で代表的な単語のみ表示)。この脳内意味マッ図2 単語埋め込み特徴を用いた符号化モデル図3 可視化された脳内意味マップの例133-1 日常的な認知に関わる脳情報処理のモデル化と人工脳への応用
元のページ ../index.html#17