HTML5 Webook
25/112

まえがきICTの飛躍的な発展により、ZoomやTwitter、最近ではメタバースなどサイバー空間のコミュニケーションが日常的となり、私たちの社会ネットワークは物理的制約をはるかに超え、ますます巨大なものとなっている。しかし、人間はやはり生きものであり、機械とは異なる人間特有のやり方で社会的な意思決定をし、社会とのやりとりから様々なストレスを受けている。実際、サイバー空間のコミュニケーションにおいて、ユーザーの持つ孤独感や攻撃性の問題も指摘されている。本稿では私たちが行っている「社会脳」のメカニズムを詳しく知り、その知見を人間のパーソナリティやストレスの予測に応用する研究をいくつか紹介する。社会脳に対する我々のアプローチでは、MRIデータを中心とする社会行動中に計測する脳活動データと共に、オンライン実験で収集する大量の行動・パーソナリティデータ及びSNSやメタバースなどサイバー空間の実社会行動データを収集する(図1)。脳活動データとこれらの行動ビッグデータを一緒に解析することで、現実の社会行動を反映し、信頼性の高い知見が得られることが期待される。以下では、このアプローチの例として、人間同士が協力する際の主要な動機である不平等回避と罪悪感回避の脳内メカニズムに関する研究、不平等に対する脳活動パターンからうつ病傾向を推定する研究、SNSデータからユーザーの様々なパーソナリティや属性を予測する研究について説明する。罪悪感回避と不平等回避の脳内メカニズム人間社会を支える最も重要な基礎として協力行動がある。人間はなぜ協力するのか? この問いには長年多くの研究者が取り組んできた。しかしこの問題に脳12図1 社会脳研究における我々のアプローチICTの飛躍的な発展により、私たちは物理空間の制約を超え巨大で多様化した社会ネットワークの中で生きている。しかしながら、どれだけ技術が進んでもユーザーである人間は生物であり、機械とは異なる人間特有のやり方で意思決定を行い、他者とのインタラクションで様々なストレスを受ける。人間の「社会脳」を詳しく知ることで、人間に優しい協力的な社会ネットワークの実現や、ストレスやパーソナリティの予測に基づく人間の能力の拡張などが可能になると期待される。本稿では、このような目標に向かって我々が行っている「社会脳」の研究について紹介する。Rapid developments of Information and Communication Technology freed us from physical constraints of the society and enabled us to enlarge and diversify the society. However, humans are still a biological creature: we make social decisions in a human-specific manner and social interac-tion sometimes causes us a stress. In this paper, we will showcase our research effort which aim to elucidate neural information processing underlying human social behavior, and to predict various individual differences in social interactions such as the stress level and attitudes towards others. 3-2 社会行動を支える脳情報処理の理解と応用 –社会脳–3-2Brain Mechanisms Underlying Human Social Behavior: The Social Brain春野 雅彦HARUNO Masahiko213 ICTの最適化のための脳情報通信技術

元のページ  ../index.html#25

このブックを見る