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Hue-heat効果を用いた照明・空調連動制御システムの研究          およそ100年前、心理学者らは目から入る色情報が体感温度に影響を与えることを報告した[2]。この効果はHue-heat効果と呼ばれ、人間のクロスモーダル情報処理のひとつである。現在では、Hue-heat効果を意識的?無意識的?に使った商品やサービスが巷ちまたでも数多くみられ、人間のクロスモーダル情報処理を使った応用展開技術などとしてもよく知られている(図1)。しかし、Hue-heat効果を科学的、定量的に検証したといえる研究はあまり多くはなく(・・・科学的、定量的とは言い難い4444研究を参考にしても仕方がないので文献は割愛する!)、Hue-heat効果の基本的な知見(図1左図)を踏まえた後は、直観的な現場の感覚で社会実装されている商品やサービスほとんどである。そこで、我々はこのHue-heat効果を科学的、定量的に検証し、また、その研究成果を社会に広く還元することも視野に入れ、照明と空調を連動させた照明・空調連動制御システムを考案するための心理物理実験を行った(心理物理実験:物理的事象(物理量)とそれに対応する心理的事象(心理量)の関数関係を定量化し、人間の知覚や認知をできるだけ科学的、定量的に測定するための実験[3])。まず、実験のために照明と空調を制御する実験環境を、けいはんなオープンイノベーションセンター(KICK)内に構築した(図2、メタコンフォート・ラボ (MC-Lab))。このMC-Labを用いて、照明の違いにより体感温度がどのように変化するかを検証する心理物理実験が行われた(図3)。その結果、人間の体感温度は、照明によってある程度制御できることがわかった(図4、2~3℃程度の室内温度差であれば、照明によって温度差を感じさせないようにすることをできる。また、温度差のない空間でも照明によって異なる体感温度を感じさせることができる。詳細は原著論文[4]を参考あれ)。また、その効果は時間経過とともに、微妙に変化するが、ある程度維持されることもわかった(図4)。さらに、先に得られた実験結果(図4)を細かに分析するため、同実験環境において、実験参加者が、照明の違いがなかった場合の実験室1と2で、体感温度をどのように感じるかについても知っておくため、同照明、同温度差条件における体感温度の変化を先の実験の手順に従い、検証した(図5)。その後、これらの実験結果を総合的に分析し、照明による体感温度変化モデルを提案した(図6、詳細は原著論文[4]を参考あれ)。これらのモデルからは、従来のHue-heat効果(単に、色温度は人間の涼暖感に影響を与える)の知見をさらに発展させ、2つ以上の対象物、もしくは対象空間の色温度を変えることで、人間の涼暖感の「生成」、「除去」、「入れ替え」の制御が可能であることを示した。実験結果を基にして、こうしたモデルを構築することは、Hue-heat効果の科学的、定量的な研究成果の蓄積となることのみならず、社会実装に向けた応用展開を行う場合に、大いに役立つことが予想される(例えば、Hue-heat効果を用いて課題に取り掛かる際に、その課題が体感温度の「生成」、「除去」、「入れ替え」のどれを必要としているのかを明確にしながら課題に取り組むことができる。)。2図1Hue-heat効果とその応用展開事例 左図:一般に、色相環上で青から緑は冷涼感を(寒色)、赤からオレンジは温暖感を喚起する(暖色)。右図:Hue-heat効果を利用したと思われる飲料自動販売機の例(ちなみに、「つめたい」「あったかい」ではなく、「つめた~い」「あったか~い」と表現することで、いかなる感覚が喚起されるか筆者には、わからな~い)。図2メタコンフォート・ラボ (MC-Lab)、京都精華町 1つの部屋が5.5m× 5.5mの、実験制御室、実験室1,実験室2の3つの部屋から構成される。実験室1,2は同じ空調、照明システムが設置されており、同時刻、同仕様空間において照明、空調を制御した心理物理実験を実施することができる。図3心理物理実験の環境とデザイン 左図:実験環境。暖色照明の部屋(Warm illuminated Room)、寒色照明の部屋(Cool illuminated Room)が準備され、実験参加者は無作為に、両部屋の間が0~3℃差のあるグループに分けられた。右図:実験デザイン。実験参加者は異なる2つの照明の部屋(実験室1,2)を20分ごとに行き来し、実験室内で5分ごとに涼暖感を7段階に分けて報告した。28   情報通信研究機構研究報告 Vol.68 No.1 (2022)3 ICTの最適化のための脳情報通信技術

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