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嗅覚で見た目(視覚)を変える研究香水やアロマセラピーなど、香りを使った商品やサービスは多くみられるが、嗅覚刺激が他の感覚に影響を与えるクロスモーダル情報処理に関しては、まだまだ多くの謎が残されている。そもそも、嗅覚のユニモーダル情報処理とは、ある嗅覚情報に対して、その嗅覚刺激から喚起させられる香りの感覚情報を処理するだけのことを指すのだが(レモンの香りであれば、「レモンの香りがする」という感覚)、一般には、ミントの香りで<すっきりした>、バラの香りに<癒された>など、その嗅覚刺激から喚起させられる香りの情報以外(以上?)の感覚情報処理も指すことが多い。そのせいか(?)、嗅覚のユニモーダル情報処理研究は、物理的事象とそれに対応する心理的事象の一対一の関係が比較的はっきりしている視覚や聴覚などの研究よりもまだまだ発展途上であり、曖昧さの残るものが多く感じられる。ところで、先の<すっきりした>、<癒された>などという感覚は、嗅覚刺激が嗅覚情報以外にもたらしたであろう二次的な感覚(情動や記憶など)も含まれる感性表現であり、嗅覚刺激に対する直接的な反応を表現したものとは言えないため、科学的、定量的に研究することが難しい(図7)。こうした香りに対する感性評価表現の曖昧さ、また、これまで、人間の嗅覚特性に合わせた嗅覚刺激提示装置がなかったことなどから、嗅覚に対する研究には困難さが生まれ、結果として、嗅覚のクロスモーダル情報処理はいまだ解明されていない部分が多いのが現状である。そこで、我々は、科学的、定量的に嗅覚のクロスモーダル情報処理を研究するため、新しく開発した嗅覚刺激提示装置を使い、また、嗅覚刺激に対する感性評価の曖昧さをなくすため、嗅覚で見た目(視覚)を変えることができるか、を検証することとした(嗅3図4照明の違い「あり」の実験結果 グラフの縦軸は涼暖感、横軸は実験室1,2の温度差を示す。2~3℃の室内温度差であれば、20分程度の時間を経ても、照明を制御することによって温度差を感じさせないことができた。また、照明を制御することによって、温度差のない室内空間に体感温度の差を作り出すことができた。図5照明の違い「なし」の実験結果 同実験環境下において、実験参加者は室内温度1℃差の違いを感じることはできないが、2℃差以上の違いは感じることができた。図6照明による体感温度変化モデル 照明によって人間の涼暖感の「生成」「除去」「入れ替え」が可能。293-3 クロスモーダル情報処理研究とその応用

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