究と全く同じ実験パラダイム、視覚刺激、解析手法を用いてサルのfMRI脳活動を計測し、人間の脳活動との比較・検討を行った。ここで、人間の計測はNICTの研究者(番 浩志)が担当したが、サルの計測については、ベルギーKU Leuven大学及びハーバード大学が実施した(番はこの計測に関与せず)。その後、番が開発した機械学習法に基づいたデータ解析のパイプラインを適用することで、人間とサルのそれぞれの脳のどこでどのように3D手掛かりが融合されているのか、あるいは融合されていないのか、を調査した。その結果、従来から報告されている電気生理学な研究結果と同じく、fMRI脳イメージング計測においても、サルの場合はMT野で奥行き手掛かりが統合されていることが明らかになった[6]。すなわち、人間とサルの脳活動の違いは、脳の立体視情報処理機構の進化(あるいは退化)を反映したものであった。この結果は、脳の研究で得られた知見を応用する際に、従来の動物実験で得られた知見も重要であるが、やはり人間そのものをしっかりと計測することが必要であることを示している(決して従来の電気生理学的な研究成果を否定するわけではない)。一方で、人間(V3B/KO野)とサル(MT野)とで責任領域の違いはあるものの、種の違いを超えて立体視の手掛かりが同じ様式で統合されていることが明らかになったのは特筆すべき発見で、当該分野の重要な知見となるだろう[6]。今回発見された人間に特有な立体視情報処理経路の特性をうまく利用することで、より人間にやさしい3D映像呈示技術などの開発が可能となるかもしれない。また、V3B/KO野に着目し、なぜ人間ではその領野が発達する必要があったのかを調べることで、立体視情報処理経路の進化の謎に迫ることができるかもしれない。3D視覚情報処理に「文脈」が及ぼす影響を調べるfMRI研究 なじみのある(よく知っている、ごく最近接触したことがある、など)物体に対しては、その物体の検出や知覚が促進されることが示されている。一方、他の研究では、なじみのある物体が他の物体の知覚を抑制す3図2 サルと人間の立体視手掛かり統合部位の違い。緑から赤に沿って、より手掛かり統合への寄与度が高くなることを示す。353-4 人間の視覚情報処理機構の理解とその特性を利用したユーザにやさしい情報通信機器、映像呈示機器の開発
元のページ ../index.html#39