唆された。これらの結果を説明する1つの仮説として、なじみのある(あるいは知識として知っている)立体形状にはトップダウン処理が多く関与するため、細かな処理がスキップされてしまい、その結果弁別成績が悪くなるのに対し、新規形状はボトムアップに処理する以外に全体を知覚する手段がないため、細かな処理が適用された結果、弁別課題の成績が優れたのではないかと予想している。あるいは、新規形状に対しては暗黙の注意の影響があったのかもしれない。いずれにしても今回の結果は、観察者に奥行き形状を詳細に把握してもらいたい場合には、その形状をなじみのないものにした方がよいと結論づけられる。将来的に何らかの製品のデザインに応用できるかもしれない。両眼視差情報を処理するfMRI脳活動と計算モデルとの比較実証研究 立体視の研究で最も一般的に利用される、白黒ドットから構成されるランダム・ドット・ステレオグラム(RDS; Random Dot Stereogram)刺激を用いてRDSに対するfMRI脳活動計測実験を実施した。ここで、左右眼それぞれのRDS刺激に含まれるドットの白黒コントラストをパラメトリックに反転させることで、左右眼像の相関を操作し、その相関値の変化が脳活動に及ぼす変化を計測した。さらに、両眼への入力像の「相関」から立体を検出する計算モデルと両眼像の「マッチング」から立体を検出する計算モデルの2つのモデルを構築し、それら2つの重み付け線形和で各視覚野のfMRI脳活動パターンをどの程度説明できるのかを検討した。なお、本研究は大阪大学大学院・生命機能研究科の研究者らと共同で実施した。本研究成果は、画像のマッチングなどを行う際に、対応点の計算に齟そ齬ごが生じる可能性を低減する新しい画像処理システムに応用できるかもしれない。あるいは、本研究で見つけた2つの処理モデルは、CiNet Brainを支えるネットワーク構造として利用できるかもしれない。映像酔いを防ぐデザイン最近、インターネット上の動画投稿サイトなどが若者を中心に多くの人気を集め、長らくTVの独占状態が続いていた映像視聴機器市場がPCやスマホへと移行しつつある。こうした新しい映像視聴サイトの隆盛にともない、映像酔いや3D酔いの問題がとりざたされることが多くなった。人間は映像視聴中に、視野が不規則に揺れると、不快感を訴える。従来の研究では、この不快感を低減させるために映像の揺れ(あるいは揺れの知覚)をどう防ぐかに関する研究が多く実施されてきた。しかしながら、視界の位置や視界デザインの影響はほとんど調査されてこなかった。我々は、いくつかの予備実験を経て、視野の一部が遮蔽されていたり、分断されていたりする場合(のぞき窓から映像を視聴する、乗り物から外の風景をみる、など)に不快感が増幅することを突き止め、その不快感を低減させる手掛かりをつかむための研究を進めた。その成果は、酔いにくい映像呈示機器への開発へとつながるかもしれない。謝辞本研究は科学研究費補助金(17H04790、21K18572、21H00968)の補助を受けて実施された。今回紹介した共同研究の機会を与えていただいた共同研究者のみなさまに感謝を申し上げます。また、研究実施にあたり、実験参加者の募集からデータ取得にいたるまで、研究全般を支えていただいた村上奈緒美氏、林美保氏に感謝を申しあげます。45図4視覚刺激の操作例(下)とその刺激に対する神経応答の2 つのモデル(上左右パネル)図3文脈つき(上の場合、顔の形状)ランダム・ドット・ステレオグラム刺激の例373-4 人間の視覚情報処理機構の理解とその特性を利用したユーザにやさしい情報通信機器、映像呈示機器の開発
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