する際も、手を用いた判断の際に運動負荷の高かった方の判断を避けるはずである。しかし、もし「手」で行うつらい運動を避けているだけなら、口答での判断は変化しないはずである。結果は口答判断にも事前に経験した手の負荷の情報が反映されることが分かった。つまり、片方の手に負荷のかかった判断を繰り返すことで、点の動きそのものに対する判断が変容したと考えられる。よって、イソップのキツネはうそをついていたわけではなく、採るのに労力のかかる葡萄が本当に「熟れていない」と判断していた可能性が高いのである。このような、感覚情報を利用した知覚判断は「知覚意思決定」と呼ばれ、Drift Diffusion Modelというモデルによって記述されることが多い[5]。これは知覚意思決定を証拠蓄積のプロセスととらえ、蓄積される証拠量がある閾値に達した時に、意思決定が行われると考えるものであり、判断の方向や反応時間のパターンを予測することができる(図5)。このモデルに基づいてこの研究の結果を考えたとき、運動の負荷は、負荷のかかった判断方向に対し、証拠が蓄積するスピードを鈍化させるのだろうか、それとも判断に至るための閾値を高くするのだろうか?今回の結果に、Drift Diffu-sion Modelを当てはめ、どのように負荷が影響を与えたのかを調査すると、負荷にかかった方向に対する判断の閾値が上昇するため、結果として、この方向に対する判断が避けられるようになることが分かった。以上の結果は、運動行為を生成するために利用される「負荷」が、感覚情報の区別にはまったく関係ないのにも関わらず、それに対する知覚を変容させてしまうことを示す典型例である。図3 運動負荷と知覚判断の実験状況と結果図4 運動負荷と知覚判断の実験42 情報通信研究機構研究報告 Vol.68 No.1 (2022)3 ICTの最適化のための脳情報通信技術
元のページ ../index.html#46