カ、電子システムメーカや他の大学の研究グループと連携して、こうしたBMIシステムの研究開発を行っている。本稿では、まず運動出力型BMIと神経信号計測手法との関係、特に皮質脳波の特長について説明した後に、①完全埋込型皮質脳波計測システム、②多点高密度柔軟神経電極、③次世代大容量脳信号体内外無線通信技術について紹介する。運動出力型BMIと神経信号計測手法運動出力型BMIにおいて脳から計測して解読する神経信号あるいはその計測手法としては様々な種類のものが考えられる。まずMEG(脳磁図)やfMRI(機能的磁気共鳴イメージング)のような大型装置を用いたものは、研究目的あるいはBMI適用前の検査等のためには有効であるが、装置が大型であるため、日常生活の中で用いることは現状では困難である。一方、小型のセンサ(神経電極等)を使用して計測する神経信号として、刺入型電極で計測する皮質内神経信号(スパイク信号や局所電場電位)、皮質脳波、頭皮脳波、がある(図1)。米国では剣山型や糸型の電極を脳に刺入・留置して計測したスパイク信号等を用いたBMIシステムが報告されているが、安全性や長期安定計測の面での議論が続いている。皮質脳波(Electro-Corticogram: ECoG)は、脳の表面に直接留置した電極から計測を行うことにより皮質で生じる電気的活動を読み取る手法である。刺入型電極に比して侵襲性が抑えられており長期間にわたって安定した信号計測が期待できること、頭皮脳波(Electro-Encephalogram: EEG)などの非侵襲手法に比して時空間解像度の高い信号を計測できること、などの利点がある。特にハイガンマ帯と呼ばれる帯域(約60~200 Hz)の、運動時に活動が大きくなる脳波信号が、頭皮脳波とは異なり減衰せずに残っているため、信号から運動意図を読み取る点で優位性があるとされている。皮質脳波計測はてんかんの発作焦点の検索、開頭手術における中心溝の同定などの目的で長く臨床現場で用いられてきた手法であるが、近年ではそのバランスのとれた特性からBMIのための脳情報読み取り手法として期待を集めている[1]。完全埋込型皮質脳波BMIシステムの開発皮質脳波を利用したBMIシステムを長期間にわたって用いるためには、感染を防ぐために装置全体を小型化して体内に完全に埋め込み、計測した信号を無線通信にて体外に送信するようなシステムの構築が必要である。我々は装置の小型化に向けてまず64個の皮質脳波電極からの神経信号を増幅してAD変換するLSIを広島大学、大阪大学ほかのグループと共同で新規に開発[2]した上で、システム全体の開発を大阪大学、医療機器メーカほかとの連携プロジェクトとして開発を進め[3]、体内外無線通信ユニット、給電ユニット、防水ケーシングを備えたシステムとして完成させた。体内外無線通信は、2.4 GHzのISM帯を利用している。128 chの完全埋込型皮質脳波BMIシステムの全体写真を図2に示す。現在は大阪大学ほかが中心となり、さらに改良を加えた上で、治験に向けた準備を進めている。高密度多点皮質脳波電極の開発4.1皮質脳波を用いた脳情報計測前述のように皮質脳波はセンサの脳実質への刺入を伴うことなく、脳の表面から計測を行うことにより皮質で生じる電気的活動を読み取る手法である。臨床で使用されるECoG電極アレイはシリコーンでできた柔軟なシートに8個から64個程度の計測点が碁盤目状に埋め込まれた構造となっている。計測点下の皮質には1 mm3あたり約50万個のニューロンが存在し[4]、神経活動に伴い個々のニューロンの細胞膜に存在するイオンチャネルを介してイオンの流出入が生じる。流出入するイオンによりニューロンの近傍に電場が発生し、多数のニューロンそれぞれが生み出した電場の重ね合234図1 脳情報計測手法としての皮質脳波a: 刺入型電極、頭皮脳波、皮質脳波の計測箇所の違い。b: 脳表に置かれた皮質脳波電極のイメージ図2 大阪大学ほかと連携して開発した完全埋込型BMIシステム46 情報通信研究機構研究報告 Vol.68 No.1 (2022)4 いつまでも健康で幸せな生活のために:ヒトの脳機能を補助・拡張するための研究・技術開発
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