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わせによって細胞外電場電位が生じる。さらに、生じた細胞外電場電位は体積伝導によって計測点が配置された皮質表面まで伝わる[5]。個々の計測点は薄い白金円板などの導体とそれに続く配線で構成されており、導体に生じた数十~数百µVオーダの電位変化が増幅器を通して皮質脳波信号として計測される。以上の生理学的背景から示されるように、皮質脳波電極で計測される信号は多数のニューロンの活動が空間的に平均化されたものである。このため一定の限界は存在すると想定されるものの[6][7]、個々の計測点を小さくして高密度に配置することで脳活動読み取りにおける空間解像度を高めることができると考えられる。現在、臨床検査用としての皮質脳波電極アレイ、あるいは臨床BMI研究で用いられている皮質脳波電極アレイは計測点の直径が1~4 mm、計測点の間隔は4~10 mm程度であり、比較的大きな計測点が疎に配置された構造となっている(図3)。例として脳の機能単位の1つである皮質コラムの大きさは直径300~600 µmと言われており、既存の皮質脳波電極のスケールでは十分なサンプリング密度が達成されているとは言い難い状況である。このような問題意識を背景として、我々はBMIへの応用に向けて皮質脳波電極アレイの更なる性能向上を図るべく研究開発を行っている。4.2高密度多点皮質脳波電極の開発我々はMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いた高密度な皮質脳波電極アレイの開発を継続して進めており、2021年には皮質コラムのスケールに迫る計測点サイズ0.05 mm四方、計測点間隔0.3mmのレベルまで電極アレイの微細化に成功している。電極アレイがカバーできる脳表の領域を保ちつつ高密度化を図る場合、計測点の多点化が同時に必要となる。この際、多数の計測点から延びる信号線をどのように配線し増幅器に接続するかという点が大きな課題となり、これまで大幅な多点化が進んでこなかった。例えば32計測点あたり1組の接続ケーブルとコネクタが必要であるとすれば、1,024計測点では32組ものケーブルとコネクタを使用する必要がある。この問題に対し、我々はごく薄く(20 µm)柔軟な皮質脳波電極を重ね合わせ、コネクタやケーブル無しにインターポーザ基板を用いて神経信号増幅多重化用チップと統合することにより解決を図った。これにより、論文発表時点で世界最多となる1,152個の計測点を備えた電極アレイを作成した[8]。この電極アレイでは12.2計測点/mm2の高い計測点密度を備えつつ、14×7 mmの計測エリアを確保することでサル運動野手指領域をカバーするのに十分な広さを両立することが可能となった(図4)。既報の情報通信研究機構研究報告(2018年)[9]で示した皮質脳波電極アレイ(計測点サイズ 0.3 mm四方、計測点間隔 0.7 mm、計測点数 96点)と比較して密度が約4倍、計測点数が10倍以上と大幅な高密度多点化が進んだ。4.3高密度多点皮質脳波電極の機能的評価連携研究先の大阪大学において、我々が開発した高密度多点皮質脳波電極アレイの性能評価実験が行われた。全身麻酔下のニホンザル1頭に対して、右脳の一次体性感覚野の手指領域(ブロードマン3b野及び1野)に電極アレイが設置された。左手の親指~小指に対して体性感覚刺激(2 mA, 0.2 mAの矩形波電流パルス)を個別に加えた際の皮質脳波が計測された(図5a)。指を刺激してから約20 msの潜時ののち、1,152個の計測点のうち一部の計測点で数百 µV程度の一過性の電位及びパワー変動が生じた(図5b)。感覚刺激を加えた際の、脳におけるこのような一過性の電位変化は体性感覚誘発電位(Somatosensory evoked potential: SEP)として知られており、ヒトやサル脳における感覚情報処理の過程を反映したものであると考えられてい図3 高密度多点皮質脳波電極と既存電極のサイズ比較図4 開発した高密度多点皮質脳波電極アレイ矢印部の下面に1,152個の計測点が配置されている。474-1 次世代ブレインマシンインタフェースの基盤技術研究開発

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