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る[10]。また、刺激する指を親指から小指へと変化させていくと、電位変動の生じる計測点が電極アレイ内の異なる部位へと移り変わってゆく現象が認められた。このようにして得られた個々の指に対する反応領域をマッピングすると、感覚野に整然と配列した指の表現領域を精密に再構築することができた(図5c)。反応領域の配置構造は微小電極の脳内への刺入と移動を何度も繰り返して調査された既知の体性感覚地図[11]に合致していた。また、内因性光信号[12]や電位感受性色素、7テスラ fMRI[13]など種々のイメージング手法でも体性感覚地図が描出できることが知られているが、これらに匹敵あるいは凌りょう駕がする空間解像度で描出が可能であることが示された。また、高密度多点皮質脳波は空間解像度に優れているのみならず、高いシグナル-ノイズ(S/N)比と時間的解像度を有していることはBMIへの応用において重要なポイントである。一般的に、非侵襲的手法においてはS/N比の問題から複数回の刺激や試行を行い、得られた結果を平均化してノイズを取り除くことによって結果が得られることが通常である。一方で本手法では、刺激によって生じた20 ms程度の瞬時の活動変化を、平均化なしに高いS/N比で描出することが可能であった(図6)。4.4まとめと関連研究以上より、高密度多点皮質脳波は光学的手法に匹敵する空間解像度と電気的計測ならではの高い時間解像度を両立可能であることが示された。さらに、マイルドな侵襲性や小型軽量性といった特性から、高密度多点皮質脳波は次世代のBMIに必要な要素を兼ね備えた計測モダリティであるといえる。次世代BMIへの応用のためには体性感覚情報のみならず運動情報計測における性能評価を行うこと、また今回示されたような高品質な計測を長期的にわたって維持することも重要であり、更なる性能向上を目指して研究開発を継続している。次世代大容量脳信号体内外無線通信技術の開発               前項で示したように、皮質脳波BMIの動作意図推定精度をより一層向上させるには、配線問題を解決しつつ計測点数を増やして、脳溝(脳の皺しわ)の中を含むより広い脳表面からより多くの情報を得ることが有効であると考えられるが、完全埋込型システムとするためには、体内から体外へと大容量の神経信号を無線通信する必要が生じる。そこで我々は、前項の1,000chレベルの電極を脳表面の数か所に留置することを想定した電極数として、4,000 ch以上の多点皮質脳波を体内から体外へ無線通信可能なシステムの開発を行っている。こうした大容量体内外無線通信を実現可能な通信方法として我々は超広帯域無線(Ultra-wideband、UWB)に着目している。UWBの特長の中で、大容量体内外無線通信に向いたものとしては、100 Mbps以上の大容量通信が可能であるにもかかわらず広帯域通信であるために原理的に送信パワーを小さくすることが可能である点、アンテナサイズを小さく(1 cm以下に)できる点などが挙げられる。我々は最大4,096 chの皮質脳波計測が原理的に可能な超多点無線計測システムを開発した(図7)[14]。4,096chの皮質脳波を各chあたり1kHzでサンプリングし、12 bitでAD変換した場合にデータレートは最大51.2 Mbpsとなるが、開発したUWB送受信機は128 Mbpsのデータレートを有しており、原理的には倍以上の電極数にも対応可能となっ5図5 高密度多点皮質脳波電極で計測された体性感覚情報a:評価の方法、b: 薬指の刺激後に得られた反応(加算平均)、c: 5指を刺激して得られた活動領域をマッピングした。図6 高い時間解像度とシグナル-ノイズ比の実現指刺激後に得られたパワー変化の時間的推移を示す。t=0 msは刺激タイミングを示す。下段では1つの計測点から得られた電圧値の時間的推移を示した。黄色い印の位置で刺激が行われた。48   情報通信研究機構研究報告 Vol.68 No.1 (2022)4 いつまでも健康で幸せな生活のために:ヒトの脳機能を補助・拡張するための研究・技術開発

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